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PM 5:20。
やっと宿泊施設に到着した。
何が3時間だド畜生。
個性を酷使すれば体温調節ができなくなるから、個性は皆の援護にのみ使用し自身は自力で何とか山を越えて来た。
死ぬかと思った。それも自分だけではないようで。
全員が息も絶え絶え、ヘトヘトだった。
轟は霜が降りているし、爆豪は汗腺が痛むのか手を押さえ、飯田はエンストを起こし、青山は腹痛、麗日は吐き気。
砂藤は当分の使い過ぎで脳機能が低下しているようだし、峰田はもぎりすぎで頭から出血。何かをやり遂げたような爽やかな表情をしているが一体何があったんだろう。
「とりあえずお昼は抜くまでもなかったねえ」
「何が三時間ですか…」
「悪いね私達ならって意味、アレ」
さり気ない実力差自慢である。
切島は空腹で死にそうな顔をしている。
男子高校生で一食抜きは死活問題だろうな。
「ねこねこねこ…でも正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった」
(ここまで猫主張が激しいとは思わなかった…)
正直ちょっと引いている。
「良いよ君ら…特に、そこ5人。躊躇の無さは『経験値』によるものかしらん?」
指を指されたのは爆豪、轟、緑谷、飯田、そして零仔の五人だった。
確かにいの一番に飛び出したのはこの五人で、後からも襲ってきた土魔獣を積極的に攻略していたのもこの五人である。
「3年後が楽しみ!ツバつけとこーーー!!!」
「うわっ」
「なにあれこわい」
「マンダレイ…あの人あんなでしたっけ」
「彼女焦ってるの、適齢期的なアレで」
適齢期…ああ、そういやキャリア12年と言っていたな。
つまりそう言う事だ。察せ。
「適齢期といえば…」と緑谷が再びピクシーボブの地雷を踏み抜きながらもずっと気になっていた様子のマンダレイの傍にいた子供を指した。
「その子はどなたかのお子さんですか?」
「ああ違うこの子は私の従甥だよ。洸汰!ホラ挨拶しな一週間一緒に過ごすんだから…」
マンダレイに手招きされ、洸汰と呼ばれた子は渋々といった様子で近づいてきた。
緑谷が屈みこんで手を差し出す。握手か。
「あ、えと僕雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」
その瞬間だった。
洸汰の鋭いストレートが緑谷の股間に炸裂した。
哀れヒーローの卵も男は皆持っている金的急所には逆らえない。緑谷ノックアウト。なんて惨いんだと思わず目を逸らした。アーメン。
それにしても今のストレート、腰の入ったいい拳だった。
「きゅぅ」
「緑谷くん!!おのれ従甥!!なぜ緑谷くんの陰嚢を!!」
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」
「つるむ!!?いくつだ君!!」
(ヒーローが嫌いなのかしら。今時の子にしては、珍しいわね)
従甥を預かっているなんて。そこまで近い真柄でもなさそうなのだが。
一週間、それも雄英の合宿中にも関わらずに一緒に過ごすって事は、ずっと預かっているという事だろうか?
(あの子のお父さんと、お母さんは…)
何を、しているの?
そうした騒ぎも一段落し、バスから荷物を下ろして部屋に運び終えると食事の時間になった。
腹を空かせていた高校生たちの箸は止まらない。
「美味しい!!米美味しい!!」
「五臓六腑に染み渡る!!ランチラッシュに匹敵する粒立ち!!いつまででも噛んでいたい!!…!!ハッ、土鍋…!?」
「土鍋ですか!!?」
「うん、つーか腹減りすぎて妙なテンションなってんね」
上鳴と切島の妙に面白いテンションを観戦しながらポテトサラダを咀嚼する。
うめえ。
「ん」
「ん」
「ん」
「『ん』のみで会話すんな。熟年夫婦かお前らは」
口にご飯をいっぱい頬張っているので言葉を発せない轟と零仔が『ん』のみで意思疎通をしていると瀬呂に突っ込まれた。
ちなみに轟のは『から揚げ取ってくれ』の意であり、零仔は『じゃあそこのミートボールとって』の意。その返答の『了解』までの流れだ。
熟年夫婦と言われて意識してしまうがここでしては怪しまれる。誤魔化すようにミートボールを食べるが、焦ったのか誤嚥した。
「っゲホ!げほっ…」
「落ち着いて食えよ。水」
「ありがと…げほっ」
そんな食事も終わって、入浴の時間になった。
「あれ?栂野入んないの?」
着替えを持って女子陣は大浴場に向かい始めている。
「あー…ごめんなさい、私今日、ちょっと…女の子の日で…」
「あらそうなの、それじゃあ残念だけど後ね」
「うん、楽しんできて」
本当の理由は、言えない。
身体の傷を見せられないからだ。
嘘を吐く事に胸を痛めながらも、大浴場にむかう皆を見送った。
(それまで暇だし…施設内でも見て回るか…)
部屋にずっといるのも忍びない。
施設を歩き回る事にした。ちょっとした探検だ。
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