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翌日。
合宿二日目、現在AM5:30。
合宿所の外で全員体操服に着替えて集合させられた。一部を除いて皆寝ぼけ眼だ。
そんな中。

(一睡もできなかった………)

零仔は女子会が終わっても一切睡魔が訪れず、気が付いたら朝日が昇っていたという最悪のパターンである。
今も眠くはないが、オール特有の気怠さがフルスロットル。瞬きすらも疲れる。

(何やってんのよ私…これから強化合宿なのよ……ただでさえいつもより過酷なのにいつもよりコンディション酷いってどうなのよ…)

頭の中が重たく感じる。
顔色の優れない零仔に轟が近づいていった。

「栂野、顔色悪ぃぞ。大丈夫か」
「!」

零仔が眠れなかった元凶だ。
いや、彼は悪くないだろうと首を横に振る。
大丈夫だ。いつも通りに振る舞えるはずだ。何でもないはずだ。

「…大丈夫、よ」

喉が強張ってしまって声の出が変だった。
これでは却ってあからさまだ。
顔を上げられなくてずっと俯いたままだったが、突然ひやりとした感覚が額に当たって、驚いて顔を上げた。
そこでいきなり轟の端正な顔立ちが飛び込んできて、心臓が跳ね上がる。

「熱は、……ねえな」

(ど、どうしようどうしようどうしよう)

心臓が暴れる。
いけない。これは非常にいけない。
後ろで芦戸や葉隠の期待に満ち満ちた視線を感じるがこちらとしては大変な非常事態だ。

そうだ。これは気づかれてはいけないし、なかった事にしなければならないものだ。
ここを越えないで、いつ越えるんだ。
PLUS ULTRAだ。校訓を汚した気がしなくもない。

(今ならまだ、無かったことできる)

いつも通りに。いつも、通りに。

「…本当に平気よ。いつもと違う環境だから眠りが浅くてちょっと寝不足なの」
「………そうか。気をつけろよ、合宿多分相当キツイもんになるからな」
「訓練してたら嫌でも目が覚めるわよ、きっと」
「…そうだな」

本当の事も交えて言えば、轟はまだ腑に落ちなさそうだがとりあえずは納得したようだ。
いつも通りにするなら、まず彼に心配をかけさせてはいけないだろうに。
彼には自分に集中してもらわないといけない。轟は優しいから、きっと零仔を気に掛けるはずだ。
それでは、いけないのだ。

(目を醒まさないと。……こんな事で平静を乱してちゃ、…何の為に雄英に来たの)

友人も出来た。大切な人にも逢えた。
それでも、結局は零仔は独りなのだ。
ずっと居心地のいいぬるま湯に浸かっていたせいで、それをずっと忘れていた。

(『氷の女王』は、独りでいい)




相澤は到着すると、眠そうな面々を感慨なく見渡して話し始めた。

「本日から本格的に強化合宿を始める。婚合宿の目的は全員の強化及びそれによる『仮免』の取得。…具体的になりつつある敵意に立ち向かうための準備だ。心して臨むように」

そう言って相澤は爆豪にボールを投げ渡した。
体力テスト時の測定器入りハンドボールだ。
どうやらそれで入学時からどれだけ成長しているかを見るらしい。

「んじゃよっこら……くたばれ!!!!!」

素晴らしくヒーローを志しているとはとても思えぬ掛け声と共にボールが射出された。
毎度思うが、爆豪は本当に本質変わらないな。いっそ尊敬すら覚える。
測定結果が出たらしく相澤の手元の測定器が音を立てた。
そこに書かれた数字は意外なものだった。

「709.6m」
「!!?」
「あれ…?思ったより…」

爆豪の入学時の体力測定結果は705.2mだ。
確かに数mは伸びたが、彼の個性の視点で見ればほとんど変わってないのと同じだ。

「約三か月間様々な経験を経て、確かに君らは成長している。だがそれはあくまでも精神面や技術面、後は多少の体力的な成長がメインで個性そのものは今見た通りでそこまで成長していない」
「…!」

まさか。
零仔の予測が正しければ、これは零仔がずっと望んでいた訓練だ。
相澤はある意味A組生徒のトラウマの象徴のような恐ろしい笑みを浮かべた。

「だから―――今日から君らの、個性を伸ばす。死ぬ程キツイがくれぐれも…死なないように」

(個性を、伸ばす…!)

つまりは上限突破、そしてコントロールを覚えるという事。
死ぬ程キツイなど覚悟の上、当然分かっている事だ。
どんな訓練でもどんとこい。
その為に雄英に来たのだから。


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