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そう意気込んで早数分。
いや数分経ったのか数時間経ったのか時間の感覚がすでに分からない。

「っぅ、ぐぅぅううう……!!!!」

ハッキリ言おう。

地獄だ。

現在零仔はドラム缶の中に水を張った所謂五右衛門風呂の亜種というべきか、まあそれに浸かっている。
そして今零仔の入っているドラム缶はピクシーボブに作ってもらった人工的な池に沈んでいる。

「いぃいい……っ、あぁああああ!!!死ぬ!!!!!」
「死にたくなけりゃ死んででも気を抜くなよ」
「ぅぅぅうううううううううううう」

何をしているのかというと、その池の水温を現時点での最高値まで上げ続けている。
そんなことをしたら一体どうなってしまうのか?そうここで思い出してほしい、零仔の現在地はその池に埋まっている水を張ったドラム缶の中だ。
周囲の池の水温は悲惨。ドラム缶など薄皮一枚。当然零仔の浸かっている水などあっという間に沸騰する。
それを沸騰させないようにドラム缶内の水温を保ちつつ池の水の水温を上げ続ける。
当然手を池に突っ込んでいなければならないため、手が死なないように手の温度も操作し続けなければならない。
個性の同時操作、そして水温と体温のコントロール。
零仔の池は現在地獄谷状態だ。
こんな訓練方法を思いついた相澤はハートマン軍曹の生まれ変わりに違いない。

余りの過酷さに奇妙な言語しか発せない。上鳴ではないが急激な知能指数の低下を感じる。


ちなみに現在の零仔では周囲の状況の分析などとてもできる状態ではないが、周囲も中々の地獄絵図だった。

麗日はピクシーボブの個性で作られた地形で自分を浮かせてハンドスピナーの如く只管回転。
瀬呂は只管テープを射出。
峰田は只管もぎり続ける。
爆豪は汗を掻くために熱されたドラム缶内の熱湯に手を突っ込み水の中で只管爆破。
尾白は硬くなった切島に只管尻尾を叩きつけ、切島は只管それに硬化で耐え続ける。
上鳴は発電機から放たれる電気を只管放電。
口田は只管生き物を呼び続ける為にやまびこの如く発声。
青山は只管ネビルレーザーを射出。個人的に麗日と同レベルで一番きつそう。
常闇は洞窟の暗闇の中で只管黒影とタイマン。
緑谷は一昔前に流行った感じのエクササイズを只管やらされ、定期的にプッシーキャッツのメンバー・虎に殴る蹴るの暴行を只管繰り返される。
轟はドラム缶の中の水に入り、個性でドラム缶の水を炎で熱しながら只管氷結し続ける。

地獄だ。
「いてええええええええ」だの「クソがあああああああ」だの「ぎゃあああああああ」だのといった悲鳴が響き続けどの悲鳴が誰のものなのかも区別がつかない。いや二つ目はすぐわかるが。
阿鼻叫喚である。

地獄という二文字で表せることができるのだろうか、これは。
もっと語彙力がいるだろこの絵図は。
この地獄を体現できる言葉が思いつかない。


「うぅぅぅううっうぐぅぅうううううううううううううううう」
《ホラホラ栂野さん、池の温度下がってきてるよ気を抜かない》
「マンダレイィィィイイイイイイイイイイ」

そのアドバイスで更に気が散る。
なんだこれは。
気が散ればドラム缶内の水の温度も急上昇してしまう。

「背水の陣…!!いや、これは四面楚歌…!?」
「そこまで語彙力出せるくらいには余裕あんのか栂野。よし、もう一段階池の温度ノルマ上げようか」
「ファーーーーーック!!!!!!!!!」
「ジジイのファックの方が気合入ってんぞ」
「相澤軍曹……ッッ!!!!!」

やっぱ生まれ変わりだろ。
口は禍の元とか絶対言ってやんねえ。
言ったらまだ語彙力ある=頭動いてる=余裕あるという方程式が生まれてしまう。

「お前結構顔に出るって言われないか」
「…っ、は!?」
「ノルマ100度上昇」
「クレイジーもここまでくると殺意」


ちなみに後にやって来たB組の面々はこのA組の最早可愛がりの域に来ている地獄絵図を見てドン引きしていた。

「うぉっ!!?なんだあそこの湯気!!?」
「地獄谷かよ!!」
「…ん!?あれ栂野さん!?」

もくもくと立ち昇る濃い蒸気の中でちらついた姿を拳藤が捉える。
池というか最早だだっ広い熱湯風呂の中に埋まったドラム缶内で、あろう事か池に手を突っ込んでいる零仔の目の据わりっぷりに軽く引いた。

「あっつい……しぬ…蒸気で皮膚が焼ける……………」
「じゃあそのまま反転だ。池の水を限界まで冷やせ。急激な温度の変化によるドラム缶の崩壊を招けばお前は死ぬぞ」
《ドラム缶内の水の温度と自分の保温も忘れちゃダメだよ》
「しにそうぅぅぅぅうううううぁぁあああああ痛ぇええええええええええええええ」
「気散らすと一瞬で自分が氷山の根になると思え。なりたいなら止めんが」
「まっっっったくこれだから合宿は地獄だぜ!!!!」


((((あそこだけフルメタルジャケットなんだよなあ……))))


自分らも悲鳴の大合唱に参加するまで、B組の思いは一つとなった。
数分後に阿鼻叫喚の中にB組も参加し、こうして朝からぶっ通しの可愛がりは、夕方の4時まで続いた。



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