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「ご機嫌よろしゅう雄英高校!!我ら敵連合開闢行動隊!!」
(敵連合――――…!)
何故ここに。
機密は完璧だった。
あの時死柄木との接触があったから合宿場所を変更して必要最低限の人員で来た。
知っているのは教員と一部のプロヒーローだけだったはずだ。
考えたくはないが、内通者がいるかもしれないとしか考えられない。
「ピクシーボブ…!」
「この子の頭潰しちゃおうかしらどうかしら?ねえどう思う?」
「させぬわ、このっ…!」
「待て待て早まるなマグ姉!虎もだ落ち着け!生殺与奪は全て…ステインの仰る主張に沿うか否か!!」
なるほど。
ステイン信者というワケか。こうして中てられた者を見るのは複雑な気分だ。
飯田は苦虫を噛み潰したような表情を隠さない。
「中てられた連中か…!」
「そしてアァそう!俺はそうお前、君だよメガネ君!保須市にてステインの終焉を招いた人物。申し遅れた俺はスピナー、彼の夢を紡ぐ者だ」
そう名乗りながら、スピナーは背に背負った巨大な得物を引き抜いた。
それは大量のナイフ、鋸といった刃物を一つに束ねた鈍器だった。
よく見たらスピナーはヒーロー殺し・ステインを彷彿とさせる姿をしている。フォロワーか。
「何でもいいがなあ貴様ら…!」
虎が一歩前に出る。
その目は憤りに満ち満ちていた。
「その倒れてる女…ピクシーボブは最近婚期を気にし始めててなぁ。女の幸せ掴もうって…いい歳して頑張ってたんだよ。そんな女の顔キズモノにして!!男がヘラヘラ語ってんじゃあないよ!!!」
「ヒーローが人並みの幸せを夢見るか!!」
虎とスピナーが交戦を始めた。
避けられない。ここは危険地帯だ。
「虎!!指示は出した、他の生徒の安否はラグドールに任せよう!私らは二人でここを押さえる!!」
「マンダレイ…!!」
「皆行って!!良い!?決して戦闘はしない事!委員長引率!」
「承知致しました!行こう!」
飯田が避難の準備を始める。
そんな中緑谷は動こうとしない。
「緑谷くん、まさか」
「…みんな、先に行ってて」
「緑谷くん!?何を言ってる!?」
「マンダレイ!!僕、『知ってます』!!」
ああ、そうか。緑谷が気にしているのは洸汰の事だ。
この騒ぎの中行方が分からない。
きっと緑谷は居場所を知っているんだろう。
「…っくそ!飯田くん、皆も先に行って!」
「なっ、栂野くん!?君まで何を…!」
「私は毒ガスを何とかします!!空気の温度を操作して上昇気流を大きくすれば、毒ガスの方は何とか出来るかも…!!皆を見つけ次第避難誘導はするから!!」
「だが!!」
「行って飯田くん!!お願い!!」
ここでは一刻を争う。
飯田は「…分かった。必ずすぐに戻るんだ!!解ったな!?」と念を押し、避難を開始した。
「栂野さん…!」
「行って緑谷くん、洸汰くんが危ないわ、早く!!」
零仔は駆けだした。
行く方向は毒ガスの満ちる場所。
(っかなり下の方でガスが溜まってる…これは動きを操作されたガスだ!上昇気流なんてもので何とか出来るものじゃない…!)
気流などといったものではダメだ。
もっと強力な風が必要になる。
だが零仔の個性で、出来る事など限られている。
下の空気を温めて気流を作るなどといった考え方では、とまでいって、ふと気づく。
(…そうよ、温度差で生まれる……分かった…!)
これは賭けだ。
自分の個性の綿密なコントロールにかかっている。
走りながら意識を集中させる。
ガスの発生場所に近い場所の一部の気温を局地的に急低下させる。そこでは気圧差が生じるはずだ。
暫くしない内に風が吹き始めた。
徐々に徐々に風が強くなり、それから更に時間を置けば強風と呼んでも差し支えない程の風力になる。
ここまでの風ならば、操作されたガスであろうと気体である限りある程度は吹き飛ばすはずだ。
後は風が自然消滅するまでにガスの発生源を何とかしなければ。
そうだ、火事だって何とかしなければならない。
丁度火事で上昇気流が起きている為それを利用させてもらおう。下の空気を温めて水分を含ませ、上昇気流で昇らせる。
そして上空の空気を個性で冷やした。水分を含んだ上昇気流が上空で冷える事で水となり、雲になり、雨が降る。
そう遠くない内に雨が降る筈だ。
「っ、寒い…」
ここで個性を多用した反動が来た。
直ぐに保温に入る。
個性を使いすぎたが温存している場合ではない。
身体を温めるという意味でも全力で疾走していると、前方に二人分の影が見えた。
後方から足音がした為か影もこちらを振り返る。
敵なら戦闘は免れない、こんな時に、と舌打ちながら構えた。が。
「っ、栂野…!?」
「テメッ、何で…!!」
「轟くん、爆豪くん…!?」
轟の背にはB組の生徒が背負われている。
ガスの所為で昏睡しているようだ。
ここに風が届いていないのに気づき、零仔はすぐさま個性を使って先程と同様の手順で風を起こした。
ここにも薄く充満していたガスが晴れるのを感じたのだろう、ずっと手を口にやって苦しそうだった爆豪が手を離した。
「栂野、お前…!この風、お前が…」
「ちょっと応用した。発生源付近にこれよりもっと強い風を起こしたし、火事起きてる上空に雨雲も作った!じき雨が降るはずよ!」
「そんなに個性使ったらお前が…!唇真っ青だぞ!!」
「出し惜しみしてる場合じゃないでしょ」
皆の命がかかっている。
これで少しでも助けになるのなら何を惜しむことがあるのか。
体温などどうとでもなる。
そんな中進んでいると、爆豪が「待てテメェら」と足を止めた。
「…おい。俺らの前誰だった…!?」
前方に影。
いや、影じゃない。黒尽くめの人。
上半身を拘束され、蹲って何をしている?
「常闇と…障子…!!」
「きれいな肉面。ああ、もう、誘惑するなよ……見惚れてた ああ いけない…」
それは立ち上がる。
その足元に転がっているのは、見間違いでなければ人の腕だ。
あの手の大きさからするに、まさか。
「障子くん…!!」
「チッ…!」
「仕事 しなきゃ」
それはぐるんとこちらを向いた。
口だけを剥き出しにした拘束具で全身を覆っている。
「あの拘束服…死刑囚の服!!気を付けて、アイツ、死刑になる程場数を踏んでる…!!」
「交戦すんなだぁ…!?コイツを前にしてか!?」
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