05.こんなのただの練習場

目の前には俺の身長の2倍はありそうなゲート。ここから先で実技試験が始まるらしい。俺は消太さんが買ってくれたトレーニングウェアを身につけ、最前列でアップをとっていた。

講堂でプレゼントマイクから聞いたルールは複雑そうで実は単純明快。ロボットを倒せば倒すほど点数は加点され、点数が高ければ高いほど合格率は上がるということだ。
それ以外のことについては特に触れられていないように思えたが、体育科の試験ではないのだからこれだけで合否が決まるわけがない。ロボットを倒すだけならば、敵にだってできるからだ。

「(ロボットも倒しつつ...一応優先するのは0pギミックだな)」

0pギミック。巨大な図体で試験を妨害するロボットだ。倒せば障害は減るが点数は加点されないという設定で、一見なんのメリットもないように見える。しかしそんな意味もない要素をあの雄英高校が導入するかという話だ。恐らく平常点かなにかに入るのだろう。
本音を言うと個性を思い切り使って暴れ回りたいが、"ヒーロー的人格の欠損"なんて理由で落とされたら流石に追い出される。俺は今日どんな手を使ってでも合格しなければならないのだ。

『はいスタート!!』
「あっさりしたはじまり方だな」

挨拶のように軽い合図で始まった実技試験。呆気に取られる生徒を尻目に、俺はゲートを飛び出した。ふと横を見れば極悪人のような表情で手から爆発を起こす男。確か説明会の際地味な奴に絡んでいた気がする。

「(こういうのに限って頭も回るんだよな、まあ俺には関係ねえけど)」

まずは足にかかる衝撃波を最大まであげ、高く飛び上がった。多数の敵がいる場合まず高いところから数と位置を把握するのは戦闘においての基本だ。
ざっと数えて100は優に越えている。バカ拾い敷地なので、恐らく多少の建築物損害は見逃されるはずだと考えたところで、俺はまず近くにいたギミックに殴りかかった。

「手にかかる衝撃波を最大限に、__そんで頭に1発!!」

けたたましい音とともに吹っ飛んだギミック。瞬間拳に感じる鋭い痛みに、俺はかつての高揚を思い出した。あー、やばい。楽しい。暴れてえ。俺の手が、皮がめくれてボロボロになるまで殴りてえ。
そんな本能を理性で無理やりしまい、俺は飛んできたギミックの破片を手に取った。
皮膚に直接あたるダメージは、衝撃波を調整しても削減しにくい。恐らく頑丈な鉄やら何やらで作られたギミックをひたすら殴れば、10体ほどで右手が使い物にならなくなってしまう。そこで俺が考えたのがこの方法だった。

「道具は基本なしって話だけど..ギミックの破片は持参に入んねえよな?」

消太さんには屁理屈だと小突かれそうなセリフだが、今は我慢してほしい。こうして俺はほとんど自分へのダメージを受けることなく、どんどんポイントを稼いでいった_____


「..なんかザワついてんな」

60pは稼いだだろうか。少なくなってきたギミックを探していると、ふと周りが少し騒がしいことに気づいた。声の元を辿れば、そこには今までのギミックとは比べ物にならない大きさの敵。見ればすぐに0pギミックだと分かるほどのインパクトだ。

「やべ、すっかりギミック倒すのに夢中になっちまった」

始まる前はあれだけ計算して起きながら、いざ戦いが始まると忘れてしまう。個性を思い切り使える場なんて中々ないのだから仕方ない。
我先にと逃げていく生徒と反対方向に足を進めると、1人の生徒がギミックに捕まえられていた。絶好のタイミング。これだけで50pは稼げるんじゃ?俺はニヤけそうになる顔を引き締め、破片を投げ捨てた。

「市民を助けるヒーロー、ここは肉弾戦でカッコよく決めてやろうじゃねえか」

建物を伝ってギミックの目線まで飛ぶ。数をこなせば構造や性質も分かってきて、頭部が弱点だということに気づいた。鼻先目がけてかかとを落とすと、そこを初めにみるみるギミックの胴体が爆発していく。そして最後、よろけた事により落下していく生徒を抱き上げ自分にかかる衝撃波を最小限にした。30メートルほど先から落ちたにもかかわらず無傷の俺を見て目を瞬かせるのは、チャラそうな金髪の男だった。姫抱きしちゃったよ最悪だよ。

「怪我は..なさそうだね。無事でよかった」
「さ、さんきゅ..すげーなお前の個性!」
「はは、ありがとう!それじゃあお互い頑張ろうね」
「あ!ちょっと待..」

何やらひきとめる声が聞こえたが、シカトしておいた。もしまた話す機会があるとすれば、それはお互いが合格した時だ。それにしても咄嗟のことにしては上手く演技できた気がする。これは帰ったら消太さんに褒めてもらわないと。