06.自立の時

「俺が0p倒すとこ見てたっしょ?めちゃくちゃヒーローだったくね?」
「調子にのんな」
「いって」

一週間後に届いた合格通知を消太さんに向かって掲げながら得意げに言うと、ノートパソコンに目を向けたまま軽く頭を叩かれた。

「お前個性存分に使えるのちょっと楽しんでただろ」
「うわバレてる.....」
「完全に目がギラついてた。オールマイトに目付けられてたぞ」
「最悪じゃん」

及第点って所だな。そう言って頭に手を置かれ、じんわり胸が熱くなる。そういえば試験が近づくにつれこうして頭を撫でてもらったりする機会が減っていただなんて考える程には、みょうじは相澤に毒されていた。一応合格祝いということで、今日は外食に連れていってくれるらしい。珍しく外行きの服に着替え始める相澤を見て、みょうじも慌てて部屋に戻った。



「あ、言い忘れてた。お前明日から一人暮らししろ」
「...は?」
「お前はもうあの時の保護児童なんかじゃない。雄英生の1人として自立しなきゃならん」
「俺が雄英行かなくなって敵になるかもしれねえじゃん」
「冗談言うな、俺が認めてるんだから黙ってヒーロー目指せ」

言いたいことを言うだけ言って、相澤は運ばれたパスタに手をつけた。対するみょうじは状況に追いつけず、ステーキにフォークを刺したまま俯いている。拗ねたようにも見える表情に、相澤は随分懐かれたものだとしみじみ思った。

「...そんなに寂しいか、なまえクンは」
「るせーオッサン」
「まーた不良になってる」
「..俺、まだアンタに何も出来てねえよ」
「...」
「2年世話になって、まだ何も返せてないのに」
「これからだ」

震えた声を遮るように相澤が言った。顔を上げれば、出会った日の、よく頑張ったと言ってくれた日の、あの目でみょうじを見ていた。

「これからお前は雄英で色んなやつに出会う。俺と2人で訓練してきた日々とは比べ物になら無いくらい、色んなことを学ぶよ。俺にとってそれ以上に嬉しいことなんて無い」

お前ならヒーローになれる。そう相澤に言われると、みょうじは本当になれる気がした。2年間育ててくれた保護者との、最後の夕食だった。これからはプロヒーローと1人の生徒として接していくのだと思うと、みょうじはどうしようもなく寂しい気分になった。



引越しの手続きはみょうじの知らぬ間に進んでおり、寝て起きた頃には私物さえも無くなっていた。そして、相澤の姿も無かった。頑張れと書かれたメモ書きと地図だけが、そこにはあった。
新居は雄英高校まで徒歩15分程度というわかりやすい場所で、1LDKの至って普通のマンションだった。

「いやマジか...勝手にトレーニングルーム作られてるし...」

自分の荷物はダンボールのまま放置している癖に、何故か部屋にはトレーニンググッズが設置されていた。自律しろと言っておきながら、つくづく相澤はみょうじに甘かったのだ。思わず浮かぶ笑みを抑えることも無くスマートフォンを起動させ、相澤にメッセージを送る。

「筋トレ道具さんきゅーね、と」

ちょうど時間が空いていたのか、返信はすぐに来た。

『何の事やら。入学式までに荷解き終わらせろよ』
『今日中に終わらせて明日は髪染め直してくる』
『キッチンは触らないこと。金は定期的に口座に振り込んどくが、無駄遣いしたら仕送り止めるからな』
「わかってるっつーの...」

そこまで言うなら追い出さなきゃよかったのにと少し不貞腐れてしまう。1人は慣れているのでなんてことないが、やはり相澤と過ごした時間はみょうじにとって酷く心地よいものだった。しかしそれを口に出せばまたからかわれるので、会話を終わらせ荷解きに取り掛かった。