1.新人戦
八月の中旬。
3年生が引退して間もないが、新人戦が2日間行われる。
私は土曜日は午前中バイトで、日曜日は朝から夕方までのロングで入っているため今回はちゃんと見に行けない。昨年は日曜日のシングルスしか見に行けてないし、でも県大会ははじめて泊まりで行くつもりなので良しとするが。バイトで稼がなきゃ。
土曜日の午前中でバイトを終え、真っ直ぐ星華公園へ向かう。
「七星ー!!やーっと来た!はやく!今8決め!!」
私を見つけた朱里が途端に私のことを呼んだ。朱里も今日はバイトが休みで見に来ている。私が来るまでは女子の試合を見て、私と合流してから男子の試合を見ると言っていた。
「もう16決まったの?早いね」
「人減ったからねー。ってか、西星も春日も今年の3年生の数がすごかったから。」
西星高校は1年生も2年生も各学年の人数を10を下回る。2年生に至っては7人。競技人口が減ったのか、白浜高校が増えたからなのか、どちらかだ。白浜高校はそれまでは団体戦に出れるか出れないかの人数までしかいなかった。男女共に。
「白浜高校、2年前から先生変わって人も集まるようになったってあやめ言ってた。東商最強世代の人なんだって。」
と朱里に言われる。同じ南聖中からは男女共に白浜高校へ進学した人も多くて、中学でも高校でも1番手前衛の近藤あやめちゃんもその1人。
白浜高校の先生は高校は東商で、県第2シードだった世代の選手らしく、大学は赤平学園大出身らしい。
と、噂をしていたら県大会掛けとなるこの試合は、白浜高校の木野平苗ペアと、桜樺高校の錦戸土田ペアが試合をしていた。土田くんと平苗くんは同じ中学だ。
「今どう??」
と朱里ちゃんは、近くにいた森岡くんに声をかける。そうだ、白浜高校の1年生だ。
「今ファイナルでーす」
「おっけー志優ありがと。」
聞いてきた朱里が戻ってくると、桜樺高校ペアがリードをしていた。
「ねえ朱里、錦戸くんって中学どこか分かる?」
「んっとね、新田の元ペアだから第一中。」
「あ、新田くんの元ペアなんだ」
「2番手だったかな?1番手は松居たちだったけど。」
なるほど。新田くんと組んでいたのか。聞いたことある名前だなと思っていた。
大接戦の末、桜樺高校ペアが勝利した。桜樺高校はここ1年、県大会掛けで敗退することが多かったが、見事に県大会進出を決めたのだ。
そして隣では準々決勝が始まっていた。白浜高校の清川篠永ペアと、西星高校の長江千葉ペアだ。
「わーお、見事にみんなジュニア同じ。しかも長江以外南聖だし」
と朱里が言う。たしかに4人ともみんなジュニアからやってるみたいだし。
「ってことは長江千葉って県大会決めてるんだな流石だわ」
長江くんは、長島くんと同じタイプだと思う。躍動感、スピード感が見られる後衛だ。うちのクラスの長島くんがそうだから、長江くんもきっとクラスでトップを誇る運動神経の持ち主なのではなかろうか。
篠永くんも、1年生ながら春の大会ではレギュラー入りしたらしい強者選手。背は他の前衛……というか、長身の千葉くんよりは全然低いが、とても高い技術を持っている。昨年の南聖中は、この2人が特に注目されていたエースだったみたい。
この試合は西星ペアの勝利だが、とても接戦になっていて面白かった。
隣では春日高校の2年生エース、池村野田ペアが大接戦の末、南陵高校の国本古澤ペアに勝利していた。負けてしまった南陵高校のペアも1年生ながら、西星の大宮片山ペアに勝利し県大会出場を決めていた。この南陵ペアは長江くんと同じ中学だったエースたちだ。
そのまま準決勝に入ると、長江千葉ペアと長島村井ペアの西星対決が始まる。長江千葉ペアは1年生とはいえ、中学までの経歴も持っていて技術のある選手だなぁと先程見ていて思った。
そこで既に敗退している藤木くんと桜井くんも近くにやってきた。その時に、1人の女の子が藤木くんの元へやってきた。
「柊弥ー。」
「お、穂佳今来たのかよ、家すぐそこのくせに 遅せぇよ」
「寝坊したんだってー。今あいつどう?」
「準決勝で泰聖たちと試合しております」
「お、ベスト4入ってんの?すげ」
あれ、どこかで見たことある……
と思っていたら朱里が声をかけた。
「え、千葉の彼女ちゃんじゃない?」
と。
「そうなんだけどそう言われるとなんか恥ずかしいな……。2年1組の新井穂佳といいます。」
少し照れ気味に話す穂佳ちゃん。
そうだ。千葉くんの彼女さんだ!
千葉くんのひとつ上、私と同い年なのは知っていたけど、私や朱里とは 学科は違う。
「え、千葉の彼女さんだって?」
と気づいた片山くんを中心に、他の部員もこちらにやってくる。
長江くんのカットサーブがとてもすごい具合に成功した時、見ていた周りの人達は声を上げる。
「うわあ、今のはえぐい」
桜井くんも言っていた。
「穂佳ちゃんって、千葉くんがテニスしてるとこ見るの初めて?」
と私は穂佳ちゃんに話しかける。
「大会は初めてかな。私の弟がテニスやってるから軽く練習相手になってくれたり、あと西の森にテニスやってる私のお父さんいるんだけど、その時に見たぐらい。」
「なるほど……。」
「私も元々スポーツやってたからね、こういう頑張ってる人見たら応援したくなっちゃう。」
と、少し羨ましそうな顔をする穂佳ちゃん。
「穂佳ってもうバドはやってないの?」
と近くにいた藤木くんが穂佳ちゃんに聞く。
「やってない。今の状態なら復帰できてもおかしくないけど、部活の辞め方がひどかったから多分戻れない。」
穂佳ちゃんは、中学生の時にバドミントンで県大会で数々入賞するなどの経歴を持っているみたいで、西星高校へも部活をやるために入ったが、怪我をしてそのまま部内でも色々とあって辞めたみたい。
千葉くんは途中、穂佳ちゃんに気づいたようで、その瞬間とてもにやけていた。
「あいつ今ニヤけた」
と笑う三原くん。
それを見た長江くんも、千葉くんの隣で苦笑い。
試合は最初は長江千葉ペアが押され気味だったが追いついたようで、接戦となっていた。ファイナルにも突入したようだ。
西星高校の同士討ちとなると、応援はそれぞれに分かれる。この応援合戦状態なところも、なかなか好きだなぁって。
「うわあ……ハラハラが止まらない」
と朱里が言う。
ファイナルゲームに入っても、接戦になっていて面白かった。最後は長島くんがアウトを決めてしまい、1年生ペアの勝利となった。
準決勝のもう一方のほうでは既に、福島花田ペアが春日高校の池村野田ペアに勝利し、決勝進出を決めた。ということは、決勝も西星同士。
とりあえず私は福島花田ペア側に向かう。準備していた玲一が私のことに気づいた。
「頑張ってくる。」
と一言を言い放って、花田くんの元へ向かう。
「なにあいつ、七星の前だからってかっこつけて」
朱里は多少馬鹿にしていたが。
福島花田ペアが、先輩の意地を見せた。
2ゲームを先取し、その後1ゲームを取られる。
私もついつい、手を握ってしまう。
既に敗退している他校の面々も、それぞれ散らばってこの試合を見ているが、みんな食いついている。
緊張感のある雰囲気のした試合だったが、福島花田ペアが勝利し、優勝を決めた。
「いや本当にどうなるかと思った……。」
「でも面白かったね」
「見事に千葉たちのさっきまでの好調な流れを止めてたよね。」
「でも長江千葉もすごいよね。」
「ねー。さすが小学生のとき全国出たペアだわ。」
「え、そうなの?!」
朱里と感想を話していると、初めて聞いた事実が。全国出てたと……。
「あ、知らない?」
「長江くんが全中出たのは知ってるけど……。」
「あーそれはみんな知ってるけど。長江千葉が小学6年のとき、私の弟がジュニアいた時だったから親も歓喜だった」
ちなみに朱里の弟は現在は中学2年生。南聖中で、テニス部にも入っている。
1日目はダブルスで終わるので、ダブルスの表彰式が行われる。そして私は、この時の写真撮影要因になっている。
そのせいで……
「七星ちゃん!良かったらこっちも!」
と、西星の女子からも呼ばれた。
女子は、西星の2年生・大久保優衣ちゃんと、1年生の伊野香織ちゃんペアが優勝したみたい。優衣ちゃんは気軽に話しかけてくれて、つぐみちゃん繋がりで親しくなった。4つ上のお兄ちゃんは男子のOBで、レギュラーとしても活躍していた。
女子部に同じクラスの子がいないから、あまり関わりはないんだけどね。
「優衣ちゃん優勝おめでとう!」
「ありがとうー!何気に初優勝!」
「そうなの?!それは更にめでたい!」
「中学の時は加奈に負けてばっかりだったから……」
優衣ちゃん、そしてもう1人の2年生エースの加奈ちゃんは一橋地区の人だ。ちなみに言うと、香織ちゃんは北別地区。西星女子は、市外からもそこそこ集まる。男子はそれほどてないけど……。
とここで、花田くんと玲一も来て、男女の優勝ペア4人での写真も撮ってあげた。
「なんかもうやり切った感あって、明日のシングルス頑張れなさそうー。」
と花田くんは言う。
「バカ言え、2冠のチャンスを」
と優衣ちゃんは花田くんをぶっ叩く。
「優衣と陽介、クラスでもこんな調子らしいから。」
と近くにいた飯田加奈ちゃんがコソッと私たちに言ってきた。そういえば優衣ちゃんも花田くんもC組だ。加奈ちゃんは違うけど。
「意外と気が合ったり?」
「どうだろうね。」
実際どういう関係か分からないが、もし関係が進むなら気になるな、なんて。
3年生が完全引退し、完全新体制がスタート。私の同級生は、ここからが勝負。みんなの引退までのあと1年、全力でみんなを応援しよう。
そしてもう1年以上も、みんなを応援し続けているんだなと思うと、時が流れるのは早い。
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