※モブ視点


 私がお見かけするお二人は、いつも「白」の世界の主人公あるじのようでした。

 整然とした立派な庭園の中、一際大きく、荘厳な彫像の施された真っ白な噴水。祝福するかのように、燦々と降り注ぐ太陽。軽やかに煌めく飛沫しぶきと、しっとり美しく揺らめく水面みなも。そんな、光さざめく憩いの場を求めて訪れる、白い小鳥たち。
 お二人は、よく噴水の縁に並んで腰掛けて、くつろいでおられました。時折、輝く水面と戯れるように指先を潜らせながら、微笑みを交わし、小鳥たちとお喋りをされて。時には、思わず聴き入ってしまうような歌声を響かせたり、手を取り合って踊っていることも。
 そんな、白と光に溢れた情景は、まさに、物語から飛び出してきたかのよう。それは、お二人が今よりずっと幼かった頃より、変わることのない光景です。

 私の立場では、込み入った事情は知る由もございませんが、お二人がまだ幼少のみぎり、ご当主様たちのご意向によって、カリム様とななし様のご関係は決定づけられました。
 これほどに名のある家のご息女であれば、決して珍しいことではなく、むしろ当然のことなのやもしれません。しかし、当時の私が、僭越ながらも率直に思ったことといえば、自分よりもずっと幼い方々が、大人たちや慣習によって世界を決められてしまうことに対する憐れみでした。
 しかし、蓋を開けてみれば、私の抱いたおこがましい憐憫など、まったくもって、ただの杞憂でしかありませんでした。お二人の白の世界は、間違いなく囲いの中に生まれたものではありましたが、今となっては、周りを取り囲む壁があろうが無かろうが、その世界の在り方が変わることはないように思われるのです。


 本日、久々にこの屋敷を訪れたななし様と連れ立って、カリム様はいつもの白い噴水で佇んでおられました。向き合うように、横向きに腰掛け見つめ合いながら、仲睦まじげにご歓談をしていらっしゃいます。
 水浴びをしていた小鳥たちが、次々とお二人の肩に、頭に、指先に止まると、揃って笑みを深めていらっしゃいました。カリム様は、何やら不思議そうな顔をしながら、膝の上の小鳥より、一輪の花を受け取ったようでしたが、すぐに、明るく輝く笑顔に変わると、言葉を添えて、ななし様の髪にその花を飾っておられました。その動きに驚いたのか、小鳥たちはお二人から飛び立ってゆき、見守るように、少し離れた場所で羽を休めています。
 ななし様は、カリム様が触れたあたりにそっと手を添えながら水鏡を覗き込み、再び顔を上げた際には、とびきりの眩しい笑顔で、少し小首をかしげるような美しくも愛らしい仕草をされました。

 不意に、カリム様が目を細めて得意げな顔をされたかと思うと、空は見渡す限りに晴れ渡っているにも関わらず、庭園は突然の雨に見舞われました。雨と言えども、それは、荒々しく全てを流し去るものとはかけ離れた、優しく降り注ぐ、恵みをもたらすものです。それらが光を受けて煌めく様は、大変美しくありました。
 そんな中、カリム様の指差す先を、ななし様のオアシスを思わせる美しい瞳が追います。その先にはきっと、淡い七色の光のアーチが待っているのでしょう。
 ご自身や高価なお召し物が濡れることなど全く気にしていないかのように、うっとりと空を仰ぐななし様と、それを優しい眼差しで見守るカリム様。吸い寄せられるように視線を交わして、微笑み合うさまは、幸せに満ち溢れているようでした。

 そして、ななし様が、御髪を飾る花を落とさないよう気遣いながら、濡れた横髪を耳にかけ、しばし伏せた瞳をあらわにさせたかと思えば、空に輝く雨粒が、今度は真っ白な花びらへと変わりました。それを目にしたカリム様は、驚いたような表情を浮かべておいででしたが、すぐに光に溢れた笑顔でななし様に応えていらっしゃいました。


 白亜の立派な彫像が彩る、大きな噴水。燦々と降り注ぐ太陽と、祝福するように輝きを放つ水しぶき。軽やかに煌めき、あたりを覆い尽くさんばかりに舞い散る白い花びら。そんな世界に溶け込み、慈愛に満ちた眼差しで言葉を交わす、白を纏った若き男女。
 息をするのも忘れてしまうような光景を目の当たりにして、改めて、お二人の幸せを願わずにはいられませんでした。どうか、彼らがこの先も、白く美しい世界で歩んでいけますように、と。