※しょーもない話。下ネタ、男体化。
「ん、」
朝の眠りと現実の狭間、自分の声がいつもよりも低い気がした。おかしいと思う気持ちと、気のせいだと思う気持ちが同居する。
目を開けると見慣れた先輩の寝顔。ちょこんと頬に触れようと伸ばした手に違和感を覚えた。なんだかいつもよりも骨ばっていて、大きい気がする。
「え?」
飛び出してきた声は、やっぱり低かった。何かおかしい。もしかして、いやそんなまさか。
胸に手を当てる。ない。
股に手を当てる。ある。
さっと血の気が引く。
「先輩、先輩!!大変です、起きてください!!」
「ん…?」
男の声で先輩に呼びかける。先輩はうっすら目を開けると、何らかの違和感には気付いたらしく、不思議そうにまばたきをする。
「あれ?お前…え?今、声…」
「私、男になっちゃったんです」
半泣きで訴える。先輩は私をじいっと見たかと思うと、いきなり股間を鷲掴みにしてきた。いわゆる玉ヒュンと言われるであろうものを経験する。
「ぎゃっ」
「ほんとだ。生えてる」
何故か先輩は冷静で、私は余計に泣きたくなってきた。
「なんでこんなことになったんだ?」
「分かんないです、私が知りたいです」
「まぁ、なっちまったもんはしょうがねぇか。今日休みで良かったな」
先輩は特に焦った様子もなく、体を起こして伸びをする。脱ぎ散らかった服を集めて着替え始めた。とりあえず私も体を起こす。
「お前、服はどうすんだ?」
昨夜は事を致したので、今は真っ裸な状態だ。確かに服はどうすればいいのだろう。
「Tシャツはもともと大きいので、そのまま着れます。でもパンツはさすがに……」
「じゃあ俺の履くか?そうだな……これでいいか?」
タンスに向かった先輩がパンツを一枚投げてよこした。
「え、でもこれって先輩が普段履いてるやつですよね?」
「なんで嫌がるんだよ」
「だって、なんとなく…」
「分かった、新しいの探すからちょっと待ってろ」
不満を示すと、新品のパンツを探して渡してくれた。そのままヒョイとズボンも投げられる。
「ズボンは別にいつも履いてるやつでもいいだろ?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
なるべく下は見ないようにしてパンツを履いて、着替えを済ませた。でも、股にある存在が気になって、どうしたって悲しい気持ちになる。
体の違和感が気になって仕方ないけれど、どうにかいつも通りに朝食は済ませた。けれど、朝食後にソファでくつろぐ時間、再び脚の間にある邪魔なものに意識が向いてしまい、気持ちは沈む。
「おちんちんいらないです」
「いらないって…」
「先輩にあげます」
「俺だって2本もいらねぇよ」
私の切実な願いは先輩に呆れられて、軽くいなされる。それもまた少し悲しい。
頭を抱えて項垂れていると、先輩が優しく肩を抱き寄せてくれた。
「先輩?」
「ん?」
「いま私、男だけどいいんですか?」
半べそをかきながら言った私に、先輩はきょとんとして、ちょっと考えてから返事をした。
「まぁ確かに男だけど、お前はお前だろ?」
「っせんぱーい!」
その言葉に感動して抱きつくと、いつもみたいに受け止めて頭を撫でてくれた。いつも通りに先輩が接してくれるのが唯一の救いだ。
朝起きてから随分と時間は経って、どうしよう、トイレに行きたくなってきた。思わずそわそわしはじめる。私の様子に気付いた先輩に声をかけられた。
「どうした?」
「いえ、えっと…」
「?」
「トイレ、行きたくて…」
「行ってこいよ」
さも当たり前のように言われる。まぁそれはそうなんだけれど、可能な限り行きたくない理由はちゃんとある。
「嫌です!だって行ったら…現実を直視しないといけないじゃないですか…」
「じゃあここで漏らす?」
「うぅ……やっぱり行ってきます……」
別になんとも思ってないように先輩は小首を傾げる。現実からは逃げ出したかったが、こんなところで漏らすのはもっと嫌だ。消去法で仕方なしにトイレに向かう。進む足はとても重い。
見たくもない現実を目の当たりにさせられて、リビングに戻ってきた私はもちろんげんなりしていた。情けない声を出して先輩に泣きついて、慰めてもらった。なんだかんだ、やっぱり先輩は優しい。
そして、常に気持ちは沈んでいたが、先輩の支えもあってどうにか一日乗り切った。ベッドの上、夢うつつの中で思うのはもちろん、元に戻りますように。
願いが通じたのか、次の日、何事もなかったかのように元に戻っていた。ほんとに一体何だったんだろう。