近いうちにナナシにプロポーズをしようと思う。けれど、どうするのが良いのかまったく決められていない。俺はこの先もずっと一緒にいるのはナナシしかいないと思っているし、彼女との結婚の意思はある。ナナシにもあることは一応確認してある。この前、映画を見ている時に「こんな家族憧れるよなぁ」なんて話を振ったら、そうですね、と優しく笑っていた。話を合わせるために同意してくれたわけではない、はず。彼女の思い描く結婚の相手は俺で合っている、はず。微妙に自信がないのが情けない。

 仮にナナシが俺と結婚したいと思ってくれているとして、問題なのは方法だ。いつもの会話の中でさりげなく切り出すのが俺たちらしくて自然だとも思うが、なし崩し的に関係が始まっていることもあり、1つの区切りとして、片膝をついて指輪を捧げる絵に描いたようなプロポーズをしてやりたいとも思う。どちらにしてもきっと彼女は喜んでくれる、はず。だからこそどちらが良いのか決めかねている。

 少なくともどちらであっても指輪は準備するつもりだ。でも、肝心な指輪のサイズが分からない。寝ている間に糸を使って測るだとか、そんなことを聞いたことはあるが、変なところで勘の良い彼女を起こしてしまう気がしてならない。いっそ本人にサイズを聞いてみる、というのもあるらしいが、指輪を着けているのを見たことがないので、聞いても分からないと返ってきそうだ。スマホで動画を眺めている彼女の手を、穴が開くほどに見つめながらそんなことを考える。

「?、先輩も一緒に見ますか?」
「あぁ」

 さすがに視線に気付いたのか、そんなふうに声をかけられた。誤魔化すために頷く。ナナシは体を俺の方に寄せて座り直すと、スマホを二人の真ん中に来る位置に構え直した。スマホの片側を左手で支えて、右手で彼女の肩を抱く。ゲーム配信を見ているようで、FPSのゲーム画面が映し出されていた。
 ちゅ、と頬に軽くキスをする。ナナシが俺の方を見て視線が交わる。透き通るような瞳を見ていると、愛しい気持ちが体中に湧き上がってくる。今度は唇にキスを落とす。彼女は嬉しそうに笑って頭を俺の肩に預け、視線を画面に戻した。

 指輪も心の準備もできていないが、今言ってしまおうか、なんて考えが、ふと浮かんでくる。一方で、いや待て、と冷静に思う俺もいる。勢いのままに言ってしまいたい自分と、きちんと考えてから行動したい自分、どちらも混在していて頭がエラーを起こしそうだ。いずれにせよ、どちらに軍配が上がるかで、今日この後の展開が変わることは間違いない。プロポーズまでの分岐点はいくつかあるが、そのうちの一つが今この瞬間だ。さぁ、どうなる?どうする?すべては俺次第だ。