※捏造



 鼻をくすぐる煙草の香り。うっすらと意識が浮上し始める。ゆっくり2度まばたきをして隣を見ると、先輩が体を起こして煙草をくゆらせていた。珍しい光景だ。ベッドサイドの灯りに照らされながら、人差し指と中指で煙草を摘んでいる。立てた片膝に手首を置き、視線を落として、気だるげに煙を吐き出した。私が見ているのに気付いたのか、視線を上げた先輩と目が合う。

「悪ぃ、タバコ臭かったよな。起こしちまったか?」
「まだ起きてました」
「そうか」

 本当は起こされてしまったけど、それは内緒にしておく。これくらいの些細な嘘は許されるはずだ。ゆったりと頭を撫でられるのが心地よくて、軽く目を閉じる。
 ふーっと息を吐く音が聞こえて、再び目を開けた。こちらを見ていた先輩と視線が交わる。一度眠りにつく前の、情熱的で荒々しい瞳は今はもうそこにはなくて、穏やかで優しい青色がそこにはあった。

「なんか先輩カッコいいです」
「へへっ、見惚れちゃった?」

 思ったことをぽつりと呟くと、先輩は得意げに口の片側をニヤリと上げて、ちょっとムカつく顔をした。

「でも、タバコ吸ってるのがカッコいいっていう訳じゃなくて。なんていうか…いつもとのギャップ?みたいな…」
「まぁ、たまーにしか吸わないからな」

 やさしく微笑んで、髪を梳いてくれる。そんな姿に少しだけドキドキした。でもそんな想いはできるだけ心の内に仕舞って、じーっと先輩を眺める。先輩も私の頭を撫でながら、こちらをじっと見つめる。視線が逸らされるのは、煙を吐き出すのに顔を背けるときだけ。

 言葉は交わさずに、しばらく、ずっと、そうして時間は過ぎていった。煙草が短くなったのを見計らって声をかける。

「先輩?」
「ん?」
「口寂しいならキスしてあげましょうか?」
「いいの?」
「はい」

 先輩は嬉しそうに笑みを浮かべながら、ベッドサイドに置かれた灰皿で煙草の火を消した。私の顔の横に手をついて覆い被さる。ゆっくり顔が近づいてきて、目を閉じてそれを受け入れる。感じるのは優しい唇と、煙草の香り。