※某ゲームのネタです。
展開などは動画を参考にしてます。
「なーんのゲームすんの?」
PCを起動してすぐ、私のゲーミングチェアの背もたれに手をかけ、モニターを覗きながら先輩が楽しげに声をかけてきた。振り返って、高いところにある顔を見上げる。
「ピザ屋の夜間警備のゲームです」
「へぇ」
ひゅっと眉を上げて先輩は反応した。ピザ屋と聞いてか、ちょっと興味がありそうな声色だ。
「ちなみにホラゲです」
「……マジかよ」
それを聞いた途端、ものすごく嫌そうな顔になった。いつものことだけれど、ちょっと前の楽しげな表情との差が面白くて、つい笑いが零れる。私が笑ったのにムッとしたのか、先輩は何も言わずに自分のイスを私の隣に引き寄せて座った。
「見学しますか?」
「……」
何も言わずに真剣な表情でモニターを見つめている。
「やってみますか?」
「……おう」
とりあえず、で口にしてみた誘いに先輩は乗ってきた。意外な反応だ。驚いて、思わず目をぱちくりさせてしまう。
「ピザ好きならきっと大丈夫ですよ!」
「……おう」
怖い顔をしたままの先輩を勇気づけるように、口から出任せの励ましの言葉を送った。私の適当な言葉にも大したリアクションはない。本当に大丈夫なのか心配になる。
立ち上がって席を交換する。先輩はマウスを握りしめ『プレイ』ボタンとしばらくにらめっこした後、意を決したのかボタンを押した。
ゲームが立ち上がりタイトル画面に切り替わる。すでに気味の悪いクマの着ぐるみ、あるいはロボットのようなものが画面の中にはいた。
「無理しないでいいですよ?」
「いーや、大丈夫だ。……よっしゃ、行くぜ!!」
モニターを睨みつけていた先輩は、カッと目を見開いてNew Gameを選択した。なかなかに気合が入っている。
雑多に物が置かれた部屋。鳴り響く電話音。電話の先の人物は現状を説明してくれている。
「ストアのゲーム説明とあわせると、お店のマスコットキャラクターたちを監視して、どうにかこうにかする、みたいなゲームっぽいですね」
「……あぁ」
先輩は相変わらず怖い顔をして力んでいる。やらせたくて誘ったわけではないので、罪悪感が募ってきた。
「操作は大丈夫そうですか?」
「カメラ見て、ライトで確認して、扉の開け閉めして、って感じだろ?……楽勝だな!」
字面はいつも通りでも、いつもより威勢のない空元気な言葉たち。心配で思わず眉がハの字になった。
「あれ?このウサギ、移動して……?」
「ほんとだ、動いてますね」
監視カメラの映像を切り替えていると、さっそく異変は起こっていた。ウサギのマスコットが最初にいたのとは違う部屋に移動している。先輩の顔がちょっと引きつる。
「こうやって動きを確認するんですね」
「なるほどな」
先輩は頑張って平静を装っているが、眉間に力が入っているのを隠しきれていない。再び他の部屋へと画面を切り替えていく。
「あ、ウサギいなくなってますよ」
「うわ、どこ行った!?」
先ほどの部屋に画面を戻すとマスコットはおらず、空っぽの部屋が映し出されていた。先輩は焦ったようにカチカチとカメラを切り替えだす。
「え、いない?」
「先輩、ヒヨコちゃんもいなくなってます!」
「っ……」
ひと通り見回ってもウサギは見当たらず、更にはヒヨコまでもが何処へ消えたのか、最初の部屋から姿を消していた。
先輩は息を詰めて画面を食い入るように見つめながら、必死に操作している。見ている私もドキドキ感が増していくが、きっと実際にプレイしている先輩はそれ以上のものがあるだろう。ただでさえホラーゲームは苦手なのに。
「うおぁっっ!!」
「うわっ!もう、先輩に驚きましたよ」
「仕方ないだろ。急にドアップで映るなんて思ってねぇんだから」
先輩が急に大声を出して仰け反った。その声に私も驚く。モニターには見失っていたウサギの姿が、画面の大半を占めるように大きく映し出されていた。ウサギはかなり警備室に近いところまで来ており、先輩は顔を強張らせながら素早く左側のドアを閉める。
「ヒヨコは……うわっ!」
何度か画面を切り替えていると、同じく見失っていたヒヨコのマスコットをようやく見つけることができた。先ほどのウサギとは異なり、監視カメラからは離れた位置、暗闇の中にひっそりと佇んでいる。その姿に気付いた先輩はびっくりしたようで、再び大きな声を上げた。きっとすでに神経はすり減ってきている。
「他のやつは…よし、平気だな」
「ですね」
他のマスコットたちは、最初の位置から動いていないことを確認すると、先輩は少しだけほっとしたようだった。でも、あれ?もしかして……。
「先輩!左下!電気の残り10%しかないですよ!」
「えっ」
使える電力には制限があるらしく、カメラを切り替えるたびに減っているのには気付いていた。でも明らかに先程までよりも減りが早い。
「ドア!ドアも電力使ってるんじゃ…」
「マジかよ!!」
再び先輩は慌ててドアを操作して開け放つ。
「うわ、まだ居んの…?」
先ほどウサギがいた部屋に画面を切り替えると、変わらずカメラ越しにこちらを見つめるウサギが映っていた。まだまだ危機は去っていない。
「これ何時まで耐えればいいんですかね…?」
「知らねぇよ」
「朝までだと、5時か6時くらいですかね?」
「今4時だから、5時までならなんとか…!」
話している間にも先輩は画面を忙しなく切り替えて確認を続けている。
画面右上の時計が5時に変わった。無情にも何も起こらない。
「6時までか…」
「これはさすがに無理なのでは…」
「いや、どうにか…」
希望にすがるも虚しく、電気の残量はゼロになった。先輩の言葉も途切れる。監視カメラの映像を出すこともできず、扉を閉めることもできず、真綿で首を締められているような状況だ。
「……」
先輩は無言になってしまった。その時が来るのをただ待つことしかできない先輩は、緊張からか目を見開いたまま画面を凝視している。怖いなら見なくても良いのでは?とも思ったが、一度向き合うと決めたら向き合い続けるのは先輩らしい。
「どうなったらゲームオーバーなんですかね」
「……」
返事はない。
と、突然、大きな音と共に、画面いっぱいに不気味なウサギの顔が飛び込んできた。
「「ぎゃっっ!!!」」
二人揃ってビクッと肩を上げて悲鳴を上げる。心臓がギュッとなって痛い。バクバクと早鐘を打つ。
無言の時間が続く。
「先輩?大丈夫ですか…?」
「あ、あぁ」
魂が抜けたように放心している。さすがにこれ以上は…と心配になってしまうのも致し方ない。
「次、私が代わりますよ」
「いや、俺がやる」
私の提案にも聞く耳持たず、いよいよ目がキマってきているようにも見える。私としては、ムキにならずにいてほしいと思っているのに。
「でもこれ、5日間やるんですよ」
「……1日目は俺がやる」
もはや意地になっているのか、先輩は頑として譲らなかった。けれど、さすがに最後までやろうとは思えなかったのか、1日目だけにする、とボソリと言った。そして私はいつの間にか手を引かれて、腕を組まされている。
「腕組むんですか?やりにくくないです?」
「……この方がいい」
なんだかんだ怖いことに変わりはないらしい。先輩は右腕を私の左腕に絡めたまま、改めてNew Gameを押した。
5日間の夜はまだ始まったばかり。