「ぁ、ちょっと待ってください」
「ん?」

 ベッドの上、いつものように押し倒されてキスをされそうになったのを慌てて止める。

「今日は私がリードします!」
「へぇ?」

 えっちの時はいつも先輩に主導権があるので、たまには私だって主導権を握ってみたい。私の言葉に先輩は片眉を上げて挑発的な笑みを浮かべた。

「なので、今日は何もしなくていいです。というより、何もしちゃだめです。いいですか?」
「いいぜ、わかった」

 思いの外あっさりと主導権は私のもとにやってきた。なんだか逆に怪しいけれど、ひとまずスルーしよう。嬉しくて口の端がちょっと上がる。

「じゃあ先輩が下になってください」
「はいよ」

 体を起こして、先輩と場所を入れ替える。先輩に馬乗りになって顔の横に両手をついた。覗き込むように顔を近付ける。ワクワクするけれど、緊張もする。

「……ん」

 目を閉じて、よく知った唇に口付ける。ちゅっと音を立てて唇を離す。反応が気になって顔を上げると、先輩は優しい目をして私を見ていた。少し緊張がほぐれて、安心する。
 再び唇を重ねる。少し離してまたくっつける。そんな戯れを繰り返す。先輩の手が頭にまわる。キスをするたびにそっと引き寄せられる。なんだかこれだけで満足な気がしてきた。
 けれど突然タイミングをずらされて、ぐっと頭を引き寄せられた。私の口は薄く開いたままで、あっという間に舌が入り込んでくる。

「んぅ、」

 今日は私がリードするから先輩は何もしちゃだめだって言ったのに。悔しくて舌をどうにか押し返そうとするけれど、ぬるりと滑るそれを上手く扱うことなんてできなくて、ただ絡み合うだけだった。

「っせんぱい!」

 ぐいっと頭を上げて先輩を軽く睨んで咎める。先輩はニヤッと笑いながらも、とぼけた表情をしていた。わざとやっただなんてことは、その表情を見ただけで分かる。

「何もしちゃだめですよ。良いですか?」
「はいはい」

 再度約束は取り付けたものの、どこまで守ってくれるかは定かではない。
 気を取り直して、そっと先輩の首筋にキスをしてみる。普段はあまりしないことなのでドキドキする。やっぱり先輩の反応が気になって顔を覗いてみると、さっき唇にキスした時とは少し違って、なんというか、色っぽい雰囲気だった。ドキドキが大きくなる。
 今度は少しだけ舐めてからキスをしてみる。先輩の様子を伺うと、先ほどと同じ表情で、けれどもそうだ。まだ余裕綽々といった感じで、なんだかちょっと悔しい。何度か繰り返してから確認しても、あまり変わりはない。
 体を起こして、悔しさを紛らわすように服を脱ぎ捨てる。先輩も一度体を起こして、同じように服を脱ぎ去る。お互いに一糸まとわぬ姿になって、先輩の肩に軽く力を乗せて押し倒した。いつもされていることができて、ちょっと嬉しい。

 なんとなくの癖でいつもやってしまう、胸のタトゥーをなぞる行為。今日も人差し指でするするとなぞって、ちょっと楽しい気持ちになる。でも今はなぞるだけじゃ終わらせない。指でなぞるのと合わせて、軽く吸うようにキスを落としていく。先輩の手が優しく髪を撫でる。心が満たされていくような感覚だ。
 胸を彩る黒の文様をひと通り堪能したあとは、お腹を真っ直ぐ下るように唇を沿わせていく。おへそにリップ音を立てながらキスを落とすと、擽ったそうな軽い笑い声が上がって、つられて私も笑ってしまった。

 そのまま更に下って、先輩の一番大事なところまで辿り着く。すでに硬くなってきているそれを手で包んで優しく擦る。先輩は体を起こして私を見下ろす。先ほど見た余裕は今はほとんど見られない。
 舌で撫でるように舐めていると、頭を優しく撫でる手がやってきた。心地が良くて大好きな手。しばらく経って、口を離して見上げると、チラチラと炎を燃やしながら先輩も私のことを見ていた。前髪を掬うようにして髪を梳かれる。

「ん、む、」

 それからあむりと口でくわえる。口の中がいっぱいでちょっと苦しさも覚えるけれど、頭を撫でられる温かさでチャラになる気がした。気持ちよくなってもらいたくて、頭を前後に動かす。上から降ってくる熱の籠もった呼吸が、私にも熱をもたらしていた。

「もう大丈夫だ。っおい、ナナシ、」

 しばらくして、先輩は私のおでこに手を当てて制止した。けれども私は動くのを止めない。だって今日は私がリードする日だ。私のやり方で先輩を導きたい。

「っはぁ、わかったよ。好きにしろ」

 それが伝わったのか、額に触れていた手は言葉と共に髪に移って、子どもの悪戯を許すかのような手つきで撫でてくれた。何度撫でられたって嬉しい気持ちに変わりはない。

 しばらくそのまま続けると、やがてぎゅっと髪を握られて、喉の奥に液体が流れ込んだ。そのままごくんと飲み込む。
 体を起こして先輩を見る。瞳の熱は変わることなく私を見据えている。気持ち良くなってもらえたのなら、私も嬉しい。今のところほとんど順調で、ちょっぴり自信がみなぎる。

「で、お前はどうすんの?」
「え、ぁ、えっと……えっと……準備、準備するので待ってください」
「分かった」

 突きつけられた現実。さすがに今の状態ですぐに挿れるのは難しいと思う。どうしよう、そんなことまで考えていなかった。先ほど湧いたばかりの自信はあっという間に消えてなくなった。思わず目が泳いでしまう。
 先輩はじっとこちらを見つめている。そんな中で、自分の体を触るだなんて恥ずかしすぎる。できるだけ見られないように、両足をぴったりくっつけて蹲り、脚の間に手を忍ばせてみる。

「見えない」
「み、見なくていいです」
「見たい」

 恥ずかしさから泣きそうだった。いったん先輩の言葉は聞こえなかったフリをして、膝に顔を埋め、そのままの体勢を維持する。恥ずかしくてとても指は動かせない。

「脚、開いて。見えねぇ」
「見なくていいです…!」
「見たい」

 先輩はどうしても見たいらしい。でも見られるくらいなら、いつもみたいに触ってもらった方が何倍もいい。この際、リードできなくたって良い。泣きそうだけれど弱気なところは見せたくなくて、顔を上げて挑発的に提案する。

「先輩。私の体、触りたくないですか?」
「お前がシてるところが見たい」
「触りたいなら触って良いですよ。特別です」

 先輩の言葉はさらりと流して、どうにかこちらの流れに乗せたい。余裕を見せようとはしているものの、心の内は必死で仕方なかった。

「でも今日は何もしちゃだめなんだろ?」
「今だけ特別に許しちゃいます」

 私が言い出した約束を出される。そうされると幾分分が悪いけれど、今だけの条件付きで、なかったことにしてしまう。先輩は私が触ってほしいと思っていることに十中八九気付いている。でもいつもの意地悪なのか、すんなり触ってくれそうにはない。

「先輩がしてくれないなら自分でしますけど、見せません。おあずけです」

 最後の意地で気丈に振る舞ってみせた。先輩がこの駆け引きに乗ってくれないと私の負けで、見せろ見せろと言われる中で自分の体を触ることになってしまう。それだけは避けたい。
 お互いの出方を伺うように、無言の時が流れる。あんな態度を取ってはみたものの、どうなるだろうと不安と恥ずかしさで半分泣きそうだった。じわじわと涙が溜まるのを必死でこらえる。けれど、口はへの字に曲がってくる。強気な姿勢なんてどこかへ行ってしまいそうだった。

「わかった。じゃ、触らせて?」

 そんな私を見かねたのか、先輩が柔らかい表情で譲歩してくれた。今度は安心感から泣きそうになる。

「……どうぞ」

 そう言いながら、後ろに手をついて脚を開いた。やっている最中でふと気付いたが、これはこれでなんだかすごく恥ずかしいことをしている気がする。先輩の指が中心に触れる。

「もう濡れてる。俺の体触って興奮しちゃった?」
「ドキドキしてました」
「そっか」

 からかうような言葉で、けれど優しい声と嬉しそうな表情で先輩は言った。誤魔化したって仕方ないので、素直に告げる。先輩の唇が優しく弧を描く。
 そのあとは、いつものように優しく丁寧に私に触れてくれた。気持ちがいい。しばらくすると、好いところを何度も押し上げられて、快感がどんどんせり上がってくる。これ以上はだめだ。

「先輩っ、待って。イキたくない」
「ん」
「せんぱい!」

 一応、私がリードするということを忘れたわけではない。先輩の手で達してしまうのはなんだか違う気がして待ったをかける。1度目は聞き入れてもらえなさそうだったけれど、2度目の呼びかけで先輩は手を止めてくれた。ゆっくりと指を抜かれる。

「あとは私がやります……!」
「わかった、楽しみにしてる」

 そう言って、優しく笑った先輩は唇に軽くキスをした。

「あ、今のもダメだった?」
「……今のはオマケしてあげます」

 そう言って、今度は私からキスをした。二人で笑い合う。

「ぅ、ん、」

 先輩の両肩に手を乗せて、跨って自分で挿入する。ゆっくり腰を下ろしていくと、それに伴って中が押し拡げられていく。圧迫感に息が漏れる。腰を下まで落としきると、奥がぐいっと押し上げられた。
 先輩の首に両腕をまわしてぎゅうっと抱きつき、肩に顔を埋める。先輩も優しく腕をまわして抱きしめてくれた。それが嬉しくて、先輩のことが好きだなぁと改めて思う。

「はっ、ぁ、」

 ゆっくりと腰を上下させる。頭の中が気持ちいいで溢れてきた。先輩と肌を触れ合わせることで幸せを感じる。私の荒い呼吸を先輩の胸はすべて受け止めてくれた。

「もうちょい早く動けるか?」
「っはい、」

 しばらくして先輩に声をかけられる。がんばって期待に応えたかった。頭の中の気持ちいいが、どんどん増えてゆく。

「ぁ、あっ、」

 先輩の手がゆったりと背中を撫でる。下から上に撫で上げられるのに従って、ゾクゾクも一緒に上がってくる。きゅっと中が締まって先輩の存在をより強く感じる。

「っは、もう少し頑張れそうか?」
「ぁ、はい、」

 もういよいよ限界も近かった。二人の快楽のために自然と腰が動く。先輩の乱れた呼吸が耳元で聞こえる。首にすがりつく腕に力が籠もる。

「っは、あぁっ、」

 快感が限界を超えた。目の前の大きな体にぎゅっと掴まりながら、体を震わせる。先輩も私のことを強く抱きしめてくれた。嬉しい、という気持ちが心いっぱいに広がる。肩口で息を整えている間、先輩は優しく頭を撫でてくれていた。
 中から抜こうと腰を持ち上げようとすると、腰に逞しい腕をまわされて咎められる。疑問に思って顔を上げると、先輩はまだ炎を宿した瞳でこちらを見ていた。

「次は俺の番。いいだろ?」

 燃えるような熱さを携えた視線で、けれども悪戯っ子みたいなやんちゃな笑みを浮かべて確認を取られる。承諾の言葉を返すと、へへっと嬉しそうな笑い声を零しながら私の背中をベッドに押し付けた。私もふふっと笑いを零す。

 今夜の主導権は彼に移った。