「さむい…」
びゅうびゅうと北風吹き荒ぶ中、当然のことを口に出す。そりゃあ寒いに決まってる。冬も間近、風は北からやってきて、冷たい空気をせっせと運んでいる。
「こうすりゃ暖かい?」
隣にいた先輩が歩みを止めて、後ろから両腕で私をすっぽり包んでくれた。がっしりとした体を背中で感じる。確かに背中は暖かくなった、けれど。
「顔がまだ寒いです」
そんなわがままを言って、首を回しながら、私の上にある顔を見上げてみた。どっちも、と言うつもりはなかったけれど、今は外気に触れてひんやりとしている頬を温めてほしい気分だった。それに、私だって先輩を抱きしめたい。
「それじゃ、これは?」
先輩が私の前へと歩みを進めて、今度は向かい合ってのハグ。私も腕を背中にまわす。わがままから期待した、思った通りのことをしてくれた。これなら暖かい。嬉しくて、なんだか少し楽しい気持ちにすらなって、厚い胸板に頬を押し付ける。背中にまわる腕に力が込められて、私の頭に先輩の頬が擦り寄った。
冷えた空気に負けないくらいの暖かさは、いつだって側にいてくれる。