ストリーマーの年越し配信をテレビで見ながら、ソファでお菓子を摘んだり、お酒を飲んだり。ながら見、ながら飲みで、のんびりホリデーを満喫している。けれど、今日は長い時間飲んでるので、すでに意識はふわふわしているし、眠気にも襲われている。年越しまで起きていられるか、少し怪しい雲行きだ。

「街に出て騒ぎながら迎える新年も良いけど、家でゆっくりしながらってのも悪くないな」
「そうですねー」

 目を半分覆い隠す瞼を押しのけて、眠気をどうにか無視したい。ソファの上で体育座りをしてザクザクとクッキーを噛み砕きながら相槌を打つ。食べていると気が紛れるような気がするので、食べる手を止めないようにがんばっている最中だ。
 ふと、甘えたい気持ちになって、ことん、と左隣の先輩に寄りかかると、肩を手にまわして引き寄せてくれた。そうなると更に心地よくなってしまって、眠気が増してしまう。果たして12時を迎えるまで起きていられるだろうか。先輩から離れようか迷ったけれど、温かい腕の中から抜け出すのも惜しく、そのまま寄り添うことにした。

「先輩?」
「ん?」
「年明けの瞬間、キスしませんか?」
「ははっ、いいぜ?そうしよう」

 それは、寝ぼけた頭から生み出された、いつもみたいな思いつき。先輩を見上げて発した言葉は、楽しげな瞳と共に、迷うことなく賛同してもらえた。嬉しくて、へへっと笑い声を零す。

「でも、このままいくとチョコチップクッキー味のキスになりそうだな」

 私が睡魔と戦っているのが伝わっているのか、起きろ、とでもいうように、わしゃわしゃと雑に頭を撫でられる。
 まぁ確かに、こうして話している合間にも眠気と戦うためにクッキーを頬張り続けているので、先輩の言うとおりになるのかもしれない。
 一回一回のまばたきが重くなってきているのを感じる。だめ、まだちゃんと起きていないと。

「なら、うすしおポテチ味にします?」

 テーブルの上に乱雑に置かれたポテチを眺めながら提案してみた。頭はあまり働いておらず、口だけで喋っている状態だ。

「いや、それどうなの?」

 乱した私の髪を優しく整えながら、怪訝な声であえなく却下されてしまった。お気に召さないらしい。

「じゃあ、ペパロニピザ味にします?」

 すっかり冷めきって、ぽつんと一切れだけ残ったピザが目に入る。

「確かにピザは好きだけど、キスにまで求めちゃいねぇよ」
「うーん、そうですか……」

 残念ながら、これまた呆れたように却下されてしまった。ふわふわ揺れる頭の中から出てくる提案だ。所詮そんなものなのだろう。髪を耳にかけられて、ちゅっとこめかみに軽いキスが降ってくる。

「何味なら良いんですか?」
「まぁ今挙がった中だとクッキー?ほら、"甘いキス"にはなるだろ?」
「なるほど、確かに」

 見上げながら尋ねると、先輩はニヤッと笑って言葉を返した。甘いキス、だなんてロマンチックだと思う。私もそれがいいなぁ、なんて思いながらにこにこと笑顔になった。

「でも、単純に酒臭いかもな。今日、結構飲んでるだろ?」
「うーん、そうかも……」

 そんな嬉しい気分も束の間のこと。お酒臭いのはあんまりロマンチックではないなぁ…とちょっぴり残念な気持ちになる。
 夕飯の時から、日付が変わる間近の今に至るまでお酒を飲んでいるので、確かにいつもよりも飲む時間も量も多い。テーブルに無造作に置かれたビールの空き瓶、グラスや、ドシンと陣取るワインとウイスキーの瓶が物語っている。




 どうにか寝ずに迎えた12時をまわる2分前、先輩と向き合うように跨って、膝の上に座り直す。

「準備は?」
「もちろんオーケーですよ!いつでもドンと来いです」

 眠いまなこをこすりながらも意気込んだ私の言葉に先輩はカラカラと楽しそうに笑う。
 先輩の手が私の髪を耳にかけたり、頬をくすぐるように指の背で撫でたり。私もお返しに、傷跡を指でなぞったり、頬に手のひらを添えたり。そんなちょっとしたスキンシップを嬉しく思う。

 30秒前、先輩の両手が肩にまわって、額がこつんとくっついた。目をきゅっと瞑っておでこの温かさを感じる。

 5秒前、唇は触れ合う直前。お酒の香り。テレビからカウントダウンの声が聞こえてくる。

 1秒前、唇が触れ合う。

 そして、そのままで新年を迎えた。

「「ハッピーニューイヤー」」

 唇が離れて開口一番にするのは、優しく、囁くような新年の挨拶。年を迎えるにあたって、最初に触れた人、最初に言葉を交わした大好きな人。それだけで眠気に抗っていた価値があるものだ。王子様のキスではないけれど、キスしたことで少しだけ目が覚めたような気もする。

「何味でしたか?」

 その次に尋ねるのはキスの味。少なくとも、ポテチでもピザでもないことは確かだが、一体どうだったのだろう。

「チョコと酒の味」
「ボンボンショコラみたいで美味しそうですね」

 チョコとお酒のマリアージュ。大人なチョコにありそうな味で、美味しそう。見つめる先には穏やかな青色が私を見つめ返していて、安らいだ気持ちになる。

「お前は何味だった?」
「え?そうですね……お酒の味?」

 先輩は目を細めて、ふふっと楽しそうに笑った。触れるだけのキスだったので味がするほどではなかったけれど、お酒の香りがしたのは間違いない。

 キスのおかげで眠気が飛んだような気もしていたのに、決してそんな事はなくて、再び微睡まどろみが迫ってきている。目が覚めたと思ったのはほんのひと時だった。
 ぎゅうっと目を瞑って、パッと開く。それでもだめだ、眠くて仕方ない。

「寝る?」

 私の様子を見かねたのか、先輩は優しく声をかけてくれた。

「ね、ます……」

 もう少しだけ先輩との戯れを楽しみたかったけれど、とうとう眠気に降参した。年納め、年始めのキス、というミッションは無事にクリアしたのだから、もう我慢しなくてもいいはず。
 先輩に抱きつき、肩に顔をうずめる。頭と腰に、それぞれ先輩の手がまわって抱きしめ返してくれる。そっと目を閉じると、ずいぶん長らくふわふわしていた意識が、ふわりと夢の世界へ飛び立った。

 今年も大切な人と一緒に過ごせますように。