大の字になって頭だけを右に向け、誰もいない空間を眺める。いつもなら隣に居るナナシは、現場に赴いての実地研修のために出張中。昨日までは確かに隣で寝そべっていた彼女に思いを馳せ、ふと思い立って電話を架けた。さすがにこの時間ならホテルで一段落ついている頃だろう。
暮らしを共にしていることもあって、いつだって隣にいるのが当たり前だった。たった1日足らずで不在を寂しく思うなんて我ながら情けないと思ったが、それだけ彼女を愛しているのだと言い聞かせて、ナナシの枕を見つめながらコール音を聞いている。そう長くはない時を経て、呼び出し音がプツリと途切れた。
『もしもし?』
「よっ」
単語としての意味はなさないが、開口一番、嬉しそうな声色を聞いて、こちらも嬉しくなる。
「今日どうだった?困ったこととかなかったか?」
『はい、ばっちり大丈夫でしたよ!……先輩は何かありました?』
元気の良い返事が返ってきて一安心するが、やはり電話の用件が気になるのだろう。心配したように、当然の質問が返ってくる。
「いや、なんていうかさ、」
伝えたい言の葉はたったの3つ。今更なんてことはないはずなのに、口にするのに僅かな勇気が必要だった。それが少しばかりの沈黙となって現れる。
「……
これを伝えるためだけに架けた電話。
脈絡のない突然の言葉に、ぱちくりとナナシが大きなまばたきをしている姿が目に浮かんだ。そして今度は彼女の驚きが、しばし無言の時を作り出す。
『……私も大好きですよ』
驚きの後にやってくるのはきっと、ほろりと柔らかく優しい笑み。穏やかな笑顔を浮かべていることが容易に想像できるほどに、あたたかくて優しい声だった。彼女から愛されていることを嬉しいと思ったし、その言葉を、言葉の
「へへっ。いつも一緒にいるから、たまには電話で伝えるのもいいかと思って。こういう時くらいしかチャンスないだろ?」
『ふふっ、そうですね。ありがとうございます!』
話しながらなんとはなしにナナシの枕に触れた。きっと彼女はいつものように、へにゃりと嬉しそうに笑っている。ビデオ通話ではないので姿は見えないが、そうだという確信がある。
『このあとも出張がんばれそうです!』
「俺も明日の仕事、がんばれそう」
『えへへ、おそろいですね』
「だな」
それから軽く他愛のない話をして、おやすみを交わして、電話を切った。過去と今では関係性が違うといえど、軍を辞めてから再会するまでは年単位で会っていなかったというのに、今やたったの1日で恋しくなる。
「はぁ……」
天井を見て、ため息をついた。でもそれはネガティブなものではなくて、喜びを吐露するためのもの。特別に素敵な短い電話のやりとりだけで、今日1日がとても良い日だったと思えた。