先輩とのデート中、ふと手を繋ぎたくなった。けれど、先輩は頭の後ろで手を組んでいて叶わない。伝われーと念を送ってみると、先輩がこちらを向いて目が合った。手を差し出されることを期待する。先輩も何か察したのか、器用に片眉を軽く上げてから微笑んだ。顔を覗き込まれて、ちゅっと軽くキスをされる。それはそれで嬉しいけれど、今はそうじゃない。複雑な気持ちになりつつも嬉しいことに変わりはないので、自然と笑顔になった。

 今度は腰を抱かれてもう少し近い距離で歩きたいなぁと思った。今は先輩が斜め前、私が後ろで、少し離れて歩いている。先程のように、伝われーと念を送ってみると、再び先輩がこちらを向いて目が合った。足を止めて微笑んでいる。今度は叶いそうだと思い嬉しくなっていると、また顔を覗き込まれてキスをされた。それから今度は、手を繋いでくれる。嬉しいけれど、やっぱり今はそうじゃない。さっきと同じ複雑な気持ちになりながらも、やっぱり私は笑顔になった。

 今は外出中だけど、もう一度キスをしてほしくなった。今度こそ伝われーと強く念を送る。先輩の顔を見上げると、私の視線に気付いたのか見つめ返してくれた。笑顔の先輩に、期待する。さっきまではキスしてくれた。だからきっと今回も。けれども先輩は私の顔を覗き込むことはせず、腰に手を回して抱き寄せた。私も先輩の肩に頭を寄せる。嬉しいけど、嬉しいのに。今日はなんだかうまく行かない。

 カフェで休憩中、先輩の手を握ってイチャイチャしたいと思った。先輩はコーヒーを手にして傾けている。さすがに諦めの念も入りつつ、再び先輩にテレパシーを送ってみる。言葉にすれば叶えてもらえるのに、何も言わずに気付いてほしいだなんて、やっぱり我儘だ。視線を落として、手持ち無沙汰に自分の指を意味もなく絡ませたりしてみる。しばらくそうしていると、おもむろに先輩の右手が私の左手に重なった。顔を上げて先輩を見ると、優しく笑っている。

「なんか手、暇そうだったからさ」

 嬉しさが体の底から湧き上がってきた。うまく行かないと思ったけれど、そんなことはなかった。頬がだらしなく緩んでいるのが自分でも分かる。
 それからお互いの手を握ったり、手の甲を指で撫でたり、そんなことをして過ごすことができた。願いの叶った私は幸せものだ。