今回のランク戦のマップは市街地。対戦相手は五人部隊の弓場隊と同時期に中位に上がってきた柿崎隊だった。どちらも隊長が生駒と同い年で「弓場ちゃんと
今回の要注意人物は弓場隊の早撃ちの名手である
『王子先輩と蔵内先輩がもう合流してる。そんで、柿崎さんが孤立してますね。あ、照屋ちゃんと虎太郎はもう合流してるんかな? やすきちの方からはどない?』
『うん。照屋ちゃんと虎太郎はもう合流してる。神田先輩はある程度、王子先輩らの近くに転送されてるけど、弓場さんと柿崎さんは離れてる感じ』
いつも通り、索敵していた二人が報告をしてくる。水上が情報を飲み込んでいると、なゆたのため息が聞こえてきた。
『でも……ウチ、虎太郎とやんの苦手やねんな。まだ小学生やし』
『なんかわかる。俺もちっちゃい女の子斬られへんわ』
『じゃあ、ウチも斬れへん感じですか?』
『せやなあ……あかんわ。安喜ちゃんはちっちゃくてカワイイからなあ』
なゆたと生駒のやりとりを聞いて、死ぬほどどうでもいいなと思った。同じことを隠岐も思ったようで、そのやりとりに割り込んできた。
『おれは撃つで』
『俺も撃つわ』
『流れ弾で殺す』
『味方を殺すな! あんたら、もう試合始まってねんで。アホなこと言うとらんとはよ合流しぃや!』
ランク戦前の雑談の延長を断ち切るかのように真織が一喝入れてくる。自分たちだけまだ誰も合流できていないのだから当然だ。
索敵はだいたい、狙撃手で高所を取る隠岐とバッグワームを使っての隠密行動が得意ななゆたが行っている。特になゆたは元々気配が存在しないサイドエフェクトを持っていた。
幼い頃から人に気づかれることがほとんどない人生だったらしく、修学旅行のバスに置いていかれかけたりもしたらしい。確かに黙っていられると本当にどこにいるかわからなくなるし(これは身長差のせいもあるだろうが)、いきなり後ろから話しかけられるとかなりびっくりする。
だから、頭の悪いポメラニアンのように激しく自己主張をするようになったようだ。ずっとどうしてかわからなかったらしいが、この間、それがサイドエフェクトによる特殊体質だということが判明したのだ。他人の悪意によるものじゃなくてよかった、と何故か真織が涙を拭っていた。
『とりあえず、合流でええな?』
『そうですね。合流しましょう』
水上はいつも事前に相手のことをよく調べて、ログを見るくらいで細かな作戦は立てない。相手が選ぶマップ、転送される位置次第で無駄になりかねないからだ。だいたいのことは転送されて、味方の位置を確認してから考える。
(まあ、今回もうまいことやったら何とかなるやろ)
レーダーを確認したところ、合流地点を目指すまでに生駒に拾ってもらえそうだ。とりあえず、合流しないと始まらない。水上も合流地点を目指して走り出すことにした。
出だしは雑談だったが、今回のランク戦も滑り出しは良好だった。気配がない上にバッグワームでレーダーにも感知されないなゆたの暗殺戦法で弓場隊の蔵内を落とし、生駒の旋空孤月で柿崎隊の巴を落とした。現在の生駒隊のポイントは二点。生駒隊は生駒となゆた、そして今にも落ちそうな水上が残っている。隠岐は照屋に隙を突かれて落とされてしまった。
(足持ってかれたんは痛いなあ)
さっき、混戦になった際に生駒とはぐれたのが痛い。どさくさに紛れて、誰かに右脚の膝から下を持っていかれた。トリオンも漏れているし、何より機動力がかなり下がっている。バッグワームを装備して、片脚で跳ねるようにして、人が少なそうな場所を目指す。今、敵に遭遇したくはない。
(後残ってんのはうちと照屋ちゃんと弓場さんと王子か)
なんとか生き残る方法を探るがこの脚だととても逃げきれない。完全に詰んだ。このまま進むのも馬鹿らしくなって、塀にもたれて座り込む。王子でも照屋でもどっちでもいい。さっさと落としてくれ。
「センパイ、何してるんですか?」
「なゆたか」
突然声をかけられて顔を上げる。バッグワームを羽織った小柄な後輩が水上を見下ろしていた。自分を見つけたのが味方で良かったと思う反面、もう意味がないと思う。
「脚一本取られたのが痛いわ」
「ああ、王子先輩にやられてましたね」
「多分俺はじきに落とされる。後はイコさんとお前でうまいことやったら、生存点もいけるやろ。強い奴が仲間におったら楽でええわ」
ふう、とため息を吐いて塀にさらにもたれかかる。それを見下ろしているなゆたはどこか不服そうな顔をしていた。
「いや、最後まで生き残る努力しましょうよ」
「脚一本やられてるし、もうトリオンもカツカツや。どう考えてもあかんやろ」
「あかんくない!」
「おわっ」
ぶーたれたまま、なゆたはその細い肩に水上を担ぎ上げる。トリオン体ならではだが、小さい女の子の肩に担ぎ上げられているのは絵面的に水上はかなり恥ずかしい。絶対、作戦室で落ちた隠岐が真織と共に笑っているのが目に浮かぶ。
「おい! おろせ!」
「ウチの方が足速いんでいけるでしょ。このままイコさんと合流します」
「いや、合流する前に二人とも落ちるわ!」
「後ろから攻撃されたらシールドしてください。イコさん、センパイは拾ったんで今からそっち行きます」
『了解』
担ぎ上げられては彼女の顔は見えないが、相変わらずぶーたれているのだと思う。仕方なく、走り出した彼女の肩に収まりながら、彼女の後ろを監視する。ちゃんとサイドエフェクトが作用しているようで追われている気配はない。
生駒も隠岐もなゆたも、無駄なことをすると思う。効率よく敵を落とす方法はいくらでもあるのに、手負いの仲間を助けたり、仲間の仇を取ろうとしたり、自分で仕掛けた置き弾で爆死したり、理屈ではないことをする。そういう姿を見ると自分よりも彼女たちは情に厚いのだなあ、と感心してしまう。自分がそうできるか、そうなりたいかと考えるとまた別なのだが。
「おっ、みずかみんぐと……やすきち発見!」
あと少しで生駒と合流できる筋に辿り着けそうだというのに、運悪く王子に見つかってしまった。
「ずいぶん面白いことしてるね。恥ずかしくないの?」
「いや、普通に恥ずかしいし、お前には絶対見つかりたくなかったわ」
「なんですか、センパイ。敵ですか!」
「王子や王子。近くに弓場さんもおるかもしれへん。警戒しいや」
面白い光景を見て、王子は一度クスッと笑ってから、片腕を上げる。ちなみに彼の手首から先はさっきの混戦で水上が削っておいたものだった。
「ハウンド!」
「わー、センパイ! シールドシールド!」
「わかっとる!」
両手を掲げて、シールドを展開すると王子の放ったハウンドがガギギギンッと激しい音を立ててぶつかった。本来高いなゆたの機動力は水上を担ぎ上げているせいで落ちている。今の状況、距離を詰められるとなかなかヤバいかもしれない。
『センパイ、王子先輩撒きましょう。ウチがシールド出すんで、センパイメテオラやってくださいよ』
脚の速度を緩めないまま、なゆたが内部通話で提案してくる。何故、水上を置いていくという選択肢はないのだろうか。
『いや、俺が王子引き受ける。お前はその間にバッグワームでどっか隠れて、それからイコさんと合流せえ』
『それはいやです。ほらほら、シールド替わるんで早くメテオラ』
『何勝手に決めとんねん。別に置いていったらええやろ。ホンマに死ぬわけでもなし』
『絶対いやです。センパイ、後から絶対ネチネチ言うし』
いや、別に言わんし。そう言い返そうと思ったが、そろそろ水上のシールドも割れそうになっていることに気づいた。なゆたは絶対下ろしてくれなさそうだし、もう彼女の言うままにするしかないようだ。水上のシールドの上からなゆたの二枚シールドが被さる。しかし、素直にメテオラを撃ったところで王子は引っかかりそうにない。少し思案してから、トリオンキューブを出す。
「アステロイド!」
「はあ⁈」
水上がそう言って弾を放つとなゆたが非難でもするかのように声を上げる。しかし、弾を見てから言って欲しい。もっとも、彼女は前を向いているから見られないのだが。
ドンッ……! という爆音と共に爆風と砂埃がなゆたのシールドを削った。モロに喰らった王子の現状は煙幕に隠れて見えない。緊急脱出はしていないようだが。「え、メテオラやん!」となゆたが驚きの声を上げた。爆風に押されて、彼女の脚が少しだけ早くなったような気がする。
水上は言った弾と違う弾を撃った。それくらいやらないと王子は撒けない。どうやら成功したようだ。水上の後ろの方から足音がして、なゆたが嬉しそうにそこにいるであろう人物の名前を呼んだ。
「イコさん! 連れてきました!」
「ご苦労さん。それにしても、えらい二人とも仲良しやけどどないしたん?」
俺だけ蚊帳の外やん。生駒のどこか拗ねたような声が聞こえる。水上としても本当はこんなことしたくなかった。強要されたのだ。
「この女に強要されました」
やっと肩から下ろしてもらい、生駒と対面する。目はゴーグルで見えないが、その口はつまらなそうに尖っている。
「イコさんもやりましょか。結構いけますよ」
「ええわ。俺やったら逆がええなあ……」
なゆたの提案に生駒が首を横に振ってから、しみじみ言った。俺かて逆が良かったわ。水上は心の中で思いっきりぼやいた。
なゆたの奇行のおかげか、その日のランク戦は生駒隊の勝利だった。
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