六月から始まった初シーズンが終わって、十月から二度目のランク戦が始まった。八月末に行ったランク戦の打ち上げはみんな夏服で参加していたが、今はもう十一月。そろそろ冬服に装いが変わる頃だった。
「センパイ、作戦室開けてもうていいですか? 昨日、数学の教科書置きっぱで帰っちゃったんですよ」
食堂で朝食を食べていると冬のブレザーに身を包んだなゆたが両手を合わせてきた。生駒と隠岐と真織は朝稽古やら委員会やら色んな理由ですでに登校していて、この場にいない。この時間に朝食を食べているのは水上となゆたの二人だけだった。
「自分のトリガーで開けたらええやろ」
「いや〜、それがなんか接触不良みたいなんすよ。代わりに作戦室開けてくれたらそれでいいんで。帰りはマリオもおっきーもおるやろし」
ね、と言われて、水上は盛大にため息を吐いた。かなり面倒だが、今この場で生駒隊作戦室を開けられるのは自分しかいない。水上も教科書を忘れろと言うほど鬼ではないので、しゃーないなあ、と呟いた。それから、空になった朝食の盆を返却口に返すと二人は制服姿で作戦室に向かった。
水上がトリガーをかざすと作戦室の扉が開く。なゆたはテーブルの上に置きっぱなしになっていた教科書を持って、すぐに戻ってきた。すぐに連絡通路の方角へ向かおうとするのでそのマフラーの端を掴む。首が閉まって、ぐえ、と声を上げた。
「なんですか……」
「トリガー、開発室で見てもうた方がええやろ。壊れとったら修理せなあかんし」
「あっ、そうですね。じゃあ、ウチ、開発室行ってから学校……」
「アホ。開発室はこっちや」
「ぐおっ! マフラー引っ張るんやめてください!」
ウチ今生身なんですよ! などと言っているが、水上は無視でマフラーを引っ張った。安喜なゆたは抜けているところしかない女だ。開発室に行こうとして城戸司令の部屋に行ってしまいそうなので、仕方なく開発室まで引っ張っていくことにした。
開発室のエンジニアになゆたのトリガーを預けた。修理は放課後までには終わるらしい。トリガーがなくては連絡通路にも入れないから、となゆたの情報を入れた護身用のトリガーを渡された。
それから、二人は連絡通路を通って、三門市街に出た。二人が通っている中学と高校は同じ方向にあるので、必然的に途中まで一緒に通学することになる。
「結構ウチらって強いですよね。おっきーはグラホ入れてから、めちゃくちゃ動きよくなったし。イコさんの旋空孤月、めっちゃ伸びましたよね。今で確か、三十メートルくらい?」
「らしいなあ。まあ、うまいこと行っとるな」
その問いに水上は少し前を歩いている彼女の肩口までの茶色い髪を見ながら、うなずいた。
生駒隊が迎えた二シーズン目も順調だった。生駒と水上はほぼセットで動き、少し離れたところに隠岐。そして、なゆたは遊撃手的な立場にいた。時に爆弾魔になり、時に暗殺者にもなる。勝利はしなくても、いつも二、三点は獲っていて、安定している。うまい落とし所を見つけた、といったところだろうか。
「イコさんもおっきーも頑張ってるし、ウチも頑張ろ」
「お前、ええサイドエフェクトあるやん。今で十分強いやろ」
「いやいや……こんなん、いつか対策されます。やけん、最近レイガストの修行してるんですよ。ウチの体格やとスコピの方がええかもしれんけど、レイガストやったら盾にもなるでしょ。色々試してみよかなって思ってるとこです」
「
「あ〜、いいかもそれ」
なゆたの動きは攻撃手にも向いているから確かにブレードトリガーはありかもしれない。おつむも悪くないので弾トリガーとブレードトリガーの切り替えもうまくやるだろう。悪くない発想だ。
「何も考えてへんような顔して、色々考えとるんやな」
「あ〜、失礼な発想や〜。ウチかてもの考えてますよ。でも、狙撃手トリガーとかも使ってみたいな。今度おっきーに教えてもらお〜」
「いつか
それなんですよねえ、となゆたが腕を組みながら、口を尖らせた。気配がないサイドエフェクトは狙撃手にとってすごく有利だ。ええな〜、と隠岐も羨ましがっていた。しかし、神は彼女に二物も三物も与えるほど優しくはなく、水上が教えて多少マシになったとはいえ、弾トリガーのコントロールはあまり良くない。だからこそ、トリオン量に任せたメテオラ戦法に走りがちなのだ。元々爆発が好き、というのもあるのだろうが。小さい頃から爆発シーンが好きでそれが目当てでいつも日曜日の朝にやっている特撮ヒーロー番組を観ていると言っていた。「昔の特撮の方が爆発はすごいんですけどね。純粋に全部火薬なんで。最近はコンピューターで映像加工なんてのもあるし。ウチはやっぱり火薬での爆発が一番好きやけん、そこんとこめっちゃこだわりますよ」などと訳のわからないことをのたまっていたときはかなりヤバい奴だと思ったものだ。
「あ、そろそろ行きますね」
「おー」
そろそろ中学と高校の別れ道だ。
「せや。今日、夕方から防衛任務やからな。トリガー回収してからはよ来いよ」
「はぁい。ほな、また後で」
まっすぐ中学に向かう背中を見送ってから、水上も自分の学校へと向かう。
しかし、彼女が生駒隊の防衛任務に参加することは二度となかった。
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