彼は自ら実力派エリートを名乗るが、本当に実力派エリートなのだ。実力派エリートだから生駒に箱でぼんち揚げもくれるし、実力派エリートだから気軽に女の子のお尻を触ることもできる。さすが実力派エリートだ。生駒のできないことを平気でやってのける。
確かに迅は実力派エリートだが、さらに特筆すべきことがある。彼の持つサイドエフェクト・未来視だ。人や街の少し先の未来が視えるらしい。城戸司令や忍田本部長らも彼の未来視には一目置いている。
だがしかし、存在感がないサイドエフェクトを持つ安喜を隊員に持っている手前、迅のサイドエフェクトも当然信じるべきなのだろうが、生駒はまだ半信半疑であった。迅の常套句は「おれのサイドエフェクトがそう言ってる」だが、なんかカッコいいから言っているのではないだろうか、と半分くらい疑っていた。
しかし、彼のサイドエフェクトがなんたらの母とかそういうおかしなあだ名がついた怪しい占い師的なものではなく、本物なのだということを生駒が改めて知ったのは年末の里帰りから帰ってきて、高校二年生の冬休みが明けた一月のことだった。
始業式が終わって二日ほど、昼休みに迅が珍しく一緒に昼食を食べようと誘ってきた。断る理由はないので二つ返事で了承し、そのまま二人は食堂へ移動した。
「こないだ、安喜ちゃんが生駒隊からいなくなる未来が視えた」
生駒が呑気に学食の期間限定メニューのナス親子丼を食べているとラーメンを見つめながら、神妙な顔をして迅がそうのたまった。迅のサイドエフェクトとやらを目の当たりにするのは初めてで思わず箸をテーブルに取り落とす。それにしてもこのナス親子丼、親子丼の肉の代わりにナスが入っているのだが、これだと普通の他人丼ではないだろうか。
「なあ、迅。ナス親子丼って肉の代わりにナスが入ってねんけど、これ普通に他人丼やんな」
「え、生駒っち話聞いてた? おれ、割と真剣な話してるんだけど? お箸落としたからびっくりしたのかと思ったら、普通にナス親子丼の話されるし……ねえ、おれの話聞いてる?」
「聞いとる聞いとる。あれやろ。安喜ちゃんが生駒隊からおらんなるっていう……え? それホンマなん?」
「衝撃受けるの遅いな〜」
反応が遅い生駒を見て、迅が呆れたように笑う。
「こないだ安喜ちゃんと話したときにな、荷物を詰めた段ボール持って、作戦室を後にする姿が視えた」
「なんとかして止められへんのか、それ。安喜ちゃんはおらな困る。マリオちゃんと並んで生駒隊のマスコットやからな。そんなんパーサくんとコトノちゃんがおらへん京都サンガみたいなもんや。どっちもおらなあかんやろ」
「生駒っち、例えがよくわからないんだけど……。でも、その未来は去年の時点で確定しちゃったからなあ」
「根性でなんとかならんのか?」
「根性とかどうこうじゃなくて、それは生駒っちがどうにかできる問題じゃないんだ」
なんやそれ。あまりのことに生駒の脳がキャパシティオーバーしているが、迅は続ける。
「でも、まだ間に合う分岐がある。安喜ちゃんがボーダーに残る未来と、ボーダーにいた記憶を消して、地元に帰ってしまう未来」
迅が立てた二本の指。安喜がボーダーに残る未来と記憶を消して地元に帰る未来。そのどちらかを選ぶならば、当然ながら前者を選び取りたい。これまでずっと一緒だったのに、いきなり忘れられてしまうのはあまりにも悲しい。
正直、まだ安喜が隊からいなくなる未来に納得がいっていない。生駒でダメなら他のメンツならどうなのだろう。
「俺以外ならどうなん。安喜ちゃんがおらんなる未来」
迅の言葉を遮って訊ねる。
「他のメンバーでも変わらないよ。誰が何を言っても彼女が部隊を離れることはもう決まってる」
「マリオちゃんでも無理なんか……」
「まあ、そうだな」
迅に本当に未来が視えているのなら、そうなんだろう。少しずつ、迅の言う未来とやらを咀嚼できるようになってきた。真織でも無理なら、これはもうどうすることもできない。
「どないしたら、安喜ちゃんがボーダーに残ってくれるやろか」
言わなくてもいい未来かもしれないのに、わざわざ食堂に誘ってまで生駒に話してくれたということはどうにかする方法を知っているということだ。
「うーん……強いて言えば、いつも通りの生駒っちでいること……だな。安喜ちゃんのことを気にかけておいたほうがいいのは確かだけど、彼女の肩を持ってばかりなのもダメだな」
「なんや、難しいな……」
「いつも通りの生駒っちでいいってことだよ。あはは、こりゃ言わない方がよかったな。でも、おれやボーダーとしても彼女にはいてもらわないと困る人材だからなあ」
頼むよ。そう言って、迅が両手を合わせる。安喜が迅たちにも一目置かれる存在だと知って、少しだけ鼻が高い。
「やれるだけやってみるわ。安喜ちゃんがおらんなったら寂しいからな」
「ああ、頼んだぞ」
生駒が返事をすると迅が微笑む。それにしてもこのナス親子丼……肉っ気がまったくなかった。肉が入っていないのだから当然だが。
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