安喜なゆたA


 二宮と鳩原と別れ、なゆたは隠岐と二人で生駒隊の作戦室まで歩いていた。学校が終わった頃合いだからか、人が多い。防衛任務のない隊員はみんな、放課後のド定番、個人ランク戦に勤しむのだろう。「磯野、野球やろうぜ」ならぬ、「磯野、個人ランク戦やろうぜ」である。そんな彼らのことがなゆたは羨ましかった。
「何で急に鳩原先輩と話しようと思ったん?」
 隣を歩いている隠岐がサンバイザーのつばを整えながら訊ねてくる。
「また個人ランク戦したいな〜って思ってんねん」
「暇やねんな?」
「そそそ、そんなことないわよ! 自己研鑽って大事やんやっぱ。誰か上手い人に教わったり、戦り合ったりするのが一番ええからさ……」
「なるほどなあ。狙撃手はそういうのないから……。そういうもんやねんな」
「おっきー、ウチなあ、弾トリも、孤月もレベルアップしたい! もっと強くなりたい!」
「おお、えらい大きいこと言い出したでこの子」
 なゆたの頭を撫でながら、隠岐が笑う。彼女の心境の変化を良いものと捉えてくれたらしい。鳩原の話を聞いて、なゆたはもっと強くなりたいと思った。この街で何かがしたくて、誰かを守りたくてやってきたのだ。人を守るにはやっぱり強さが必要だ。
「せやったら、やすきち。ウチに十分すぎるほどええ孤月の先生がおるやろ」
 生駒隊にいる十分すぎるほどええ孤月の先生……そんなのすぐに思いつく。マイペースで料理とギターが趣味で、サッカーとナスカレーが好きで、攻撃手で一番長い旋空孤月の射程を持つあの男だ。
「イコさんに? めっちゃ贅沢やんそれ……」
「やすきちやったらすぐ教えてもらえるやろ」
 そう言って、隠岐はトリガーをかざして作戦室の扉を開ける。オペレーターのイスにもたれかかって、本を読んでいた真織が隠岐となゆたの姿を認めるなり、「おかえり」と口を開いた。彼女に挨拶しつつ、作戦室に入ると奥で料理の本を読んでいた生駒の元へ駆け寄った。
「あの、イコさん!」
「えっ、安喜ちゃん急にどないしたん?」
 急に押しが強いなゆたを前にさすがの生駒も面食らう。
「あの、わたしに孤月教えてもうていいですか!」
「安喜ちゃんが孤月……? 別にええで」
「ホンマですか? イコさんありがとう!」
 嬉しさのあまり、なゆたは生駒に抱きつく。いきなり女の子に抱きつかれて、生駒は大混乱していた。
[戻る] [TOP]