孤月に比べると、ずっと使っていた弾トリガーはかなり使いやすく、順調に対戦相手をさばくことができた。昨日の百人斬りがほぼ百人斬られだっただけに名誉を取り戻した気分だ。
今日の対戦相手は昨日と違って、銃手と射手だ。まず、昨日来ると言っていた蔵内と引き分けて、ドキッ射手だらけの間宮隊の面々はボコボコにした。定期検査で本部に来ていた玲も「なゆたちゃんと戦いたいわ」と言って、相手になってくれた。彼女が来てくれたことが嬉しくてすっかり舞い上がってしまったため、無事に玲の鳥籠の餌食となった。
銃手だとまずは北添だ。メテオラを撃ち合う白熱した試合になった。「気合入ってんな、安喜!」と言いながら弓場が現れて、なゆたを蜂の巣にして去っていった。諏訪や堤も来てくれて、ランク戦が終わった後、諏訪が「ずいぶんでけーことやってんな。まー、頑張れよ」と言いながら、なゆたの髪をぐしゃぐしゃにして行った。トリオン体なのを差し引いてもひどい。
他は昨日に続いて、柿崎隊の面々が顔を出してくれて嬉しかった。香取も来たので、トリオン量の違いを見せつけておいた。「なんなのよアンタ!」と激怒して彼女は去っていった。なんだかんだで来てくれるところがカワイイ。
なゆたは射手だとそれなりなので、出水と里見も相手をしてくれた。加古が二宮を引っ張ってきたときは驚いたが、二宮に相手をしてもらって、すごく勉強になった。射手はやはりトリオン量イズパワーなので、そういうのを活かした戦法をしていきたいと思ったのだが、元からなゆたはそうだった。
「あー、久しぶりですよ。こんなにランク戦したん」
大半の相手と戦い終えて、なゆたはまたソファに倒れ込んだ。この二日間で、ボーダーの正隊員ほぼ全員と戦ったのではないだろうか。自分のためにこんなに集まってくるなんて思ってもいなかった。
「あいつらみんな、安喜ちゃんのために来てんな」
「こんなに人が集まってきて、わたしのサイドエフェクトなくなったんですかね」
「そんなことないやろ」
なゆたのそばを素通りしていく隊員を見ながら、生駒が言う。あれだけ派手に暴れていたのにここまでスルーされるのはやっぱりサイドエフェクトの影響なのだろう。
「わたし、これで大半のボーダー正隊員と戦ったんちゃいます?」
「まだですよ!」
唐突に元気な声が会話に割り込んでくる。生駒と二人、驚いてそちらを向くとC級隊員の隊服を着た金髪の少年が勢いよく手をあげていた。自分のサイドエフェクトを確認した矢先の出来事だったのでかなりびっくりしてしまった。
「あ、え、でも、自分、C級やん」
「今日、B級に上がったんす! 先輩、昨日百人斬りしてましたよね? おれとも戦ってください!」
「うーん、今日は百人撃ちやねんなあ」
なるほど、確かにそれではB級の隊服は間に合っていない。
「少年、名前は?」
「南沢海です!」
かなり元気な少年だ。目はくりくりだし、金髪はキューピー人形のように両端が跳ねていて結構カワイイ。
「元気ええな。今日の安喜ちゃんは百人撃ちモードやから、代わりに俺が相手するわ」
「代わりの方が豪華ちゃいます?」
そう言って、生駒はソファから立ち上がると南沢に「行こか」と行って、ブースに入ってしまった。話し相手もおらず、暇なのでそのままごろごろしていた。こんなところでごろごろするのはどうかと思うが、みんな気づいていないから構わない。
「お前なんでこんなところでごろごろしとんねん」
咎めるような声が聞こえたと思えば、視界に水上の顔が入ってきた。普通に見上げるより見やすいなあ、と思いながら、手を振った。
「めずらしーですねぇ、センパイがこんなとこ来るなんて」
「俺かてたまにはランク戦しにくるわ」
「ほう……センパイの相手してくれる人なんかおるんですか?」
寝転がったまま、わざとらしく首を傾げると呆れたような視線を向けてきた。
「お前は一体俺をなんやと思っとるんや。お前、今日は百人撃ちやっとるんやろ。俺も混ぜろや」
「うわー、態度デカいっすねー。まあ、今脳内で「なゆたちゃんとすっごくすっごくランク戦したいねんお願い!」ってセンパイが言ってる風に脳内変換したんでいいですよ」
「ようそんな気持ち悪い映像、脳内再生して平気やなお前は」
「正直吐きそう……」
「自爆か」
思えばこいつは自爆ばかりしている女だった。水上がそんなことを考えている顔をしている。ここでやっとソファから身を起こした。
「そういえば、あのときの決着まだついてないですよね」
「ああ、三回でやめたやつか」
「せっかくなんで決着つけましょうよ。今やったら、わたしも負けませんよ」
「ほな、行くで」
水上が手を差し伸べてきたのでありがたくその手を取って、立ち上がった。
水上との対戦を終えた後、南沢に何かを見出した生駒が「ウチの新しい攻撃手の南沢海くんです」と水上に紹介して、驚かれるのはまた違う話である。
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