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だって楽しそうじゃない



会話文のみ。





「私の話を聞いてくれるかい? マイ・ロード」


「なんだい? マーリンさん」


「例えば君に千里眼があったとしよう」


「わお、いきなり魅力的な夢を見せるねぇ」


「君はそれを必要とするかい?」


「そうだねぇ……。賭け事には使うかもしれないが、他にはまず使わないだろうね」


「おや、なんでだい?」


「逆に使う場面がないじゃない」


「君からしたらそうかもしれないね。世界の行く末を視たりしないのかい? 君達人間はそういうのを好みそうだが」


「私をそんな無粋な人達と一緒くたにしないでくれ。私はこれでも楽しいことが好きな人間なんだ。結末なんて興味ないよ」


「知らない方がいいってことかい?」


「そうだね。例え自分の未来や死期を知ることができたとしても、私は使わないさ」


「理由を聞きたいな」


「努力することを怠ってしまうからだよ」


「なるほど?」


「人間は自分の未来が解らないから、あるいは自分が解らないから切磋琢磨して自己研鑽するんだよ。なのに解ってしまったらそれを怠ってしまう。それにより未来が変わってしまうとも疑わずにね。だから知らない方がいいんだよ」


「でも知った方がいいこともあるとは思わないのかい?」


「うーん。ああ確かにそうだね、就職や受験の合否は前もって知った方が便利かもね。だがそれも事前に解ってしまえば努力を放棄してしまう。やはりつまるところ知らない方がいいかもしれないね、私達人間は」


「マイ・ロードは死期すらも興味ないと言うが、ほんとうにいいのかい? 少なくとも事故死や他殺は免れるかもしれないじゃないか」


「仮に私の終幕がそれだとしても構わないよ。最期がどうであれ、生物は皆平等に死ぬんだから。それが幸福死か不幸死か、それだけだよ」


「幸福死と不幸死、か。これはまた奇矯な言い方をするのだね」


「マーリンさんは好きそうだけどね」


「実際気に入ったよ」


「それは光栄だね。使ってくれてもいいよ」


「もうひとついいかい?」


「どうぞ」


「死後、君の魂に選択肢を問われた時、君はどうする?」


「よくぞ聞いてくれたねマーリンさん!」


「もう考えていたようだね」


「そうなんだよ! かなり前に面白いことを思い付いてね。言いたかったんだ」


「もっと早くに言ってくれても良かったんだけどな。それはなんだい?」


「ずばり、マーリンさんの永久に閉ざされた理想郷ガーデンオブアヴァロンに住まうことだよ!」


「これは、また。さしの私も口を噤みざるを得ない回答だね。どうして?」


「言ったじゃないか、私が『楽しいことが好きな人間』だって」


「君が私と一緒になりたいのは解ったが」


「一緒にはなりたくないよ気持ち悪いな。そこの一角に住まうだけさ」


「君口悪いな。住まうのは解ったが、それがどう楽しいことに繋がるんだい? だって君は私との会話を長く楽しみたいという性質じゃないだろうに」


「それは否定しないよ。マーリンさんは言ってしまえば不老不死でしょう? だからね私もそうなって世界中を旅するのさ。確かマーリンさんって喚んでなくても化現できるでしょう?」


「構ってちゃんに見えてしまうことには目を瞑るとして、君は不老不死になりたいの? それとも旅がしたいから不老不死になりたいの?」


「旅したいからかな。生前に旅するのはそれはそれで楽しいが、あいにく私は食事が好きじゃないんだよね。食べる行為そのものがね。だって面倒なんだもの、噛むことがさ。その点一度死んでしまえば食事という厄介事がひとつ消えるし、マーリンさんがよくする夢の中に逃げるってヤツがあればお金だって不要になってくる。こうして考えれば、確かに閉鎖空間に閉じ込められるのは窮屈だけど、マーリンさんのように好きな時に化現することができればそれも魅力なものになってくる」


「もしかして君、食い逃げする気かい?」


「それだけじゃないよ。物品だって限りなく盗めるし、好きな土地に降りられれば旅費だって掛からない。そして食べる必要性のない体のおかげで食費も浮く。これぞまさに旅日和ならぬ旅体たびからだって言うやつだよ!」


「うわぁ、終いに盗むって言っちゃったよ。君なかなかに根性曲がっているね」


「自分の能力を最大に活かしただけさ。マーリンさんも戦闘不能時によく夢の中に逃げ込むだろうに」


「それに関してはぐうの音も出ないね」


「実際どうなのさ。そんなことできるの? グランドの資格を持つキャスターさん」


「ここぞとばかりにそれを引き出さないでほしいな。難しいんじゃないかな。私はあくまで夢魔の混血でひとりの魔術師に過ぎないのだからね」


「悪魔だけに?」


「悪魔だけに」


「期待したんだけどなぁ」


「無茶な期待は荷が重いよ」


「逆に聞きたいけどさ、マーリンさんは純粋な人間になれたら何がしたいのさ」


「私がかい? 悩むねぇ」


「色気出す暇あるなら答えてくれるかな。当てられるわけないじゃないか、気持ち悪いな」


「ああ、ひとつ思いついたよ」


「なになに?」


「女の子」


「舌切るよ」


「『女の子』って言っただけじゃないか!」


「どうせくだらないことだと察したよ。それよりももっといいことはないのかい? そんな獣畜生でもできるようなことがしたいっていうなら、マーリンさんほど退屈な人は居ないね」


「獣畜生って、君ねぇ。まあ強いていえば、『食事』かな」


「ああそっか。マーリンさんって味が解らないんだっけ?」


「厳密には『実態化している物の味』だけどね。君達が持つ感情の味には明瞭さ」


「今更だけど感情の味ってマーリンさんが言うから違和感がないのであって、普通は頭の正常を疑われるくらいの発言だよね」


「さっきから辛辣過ぎではないかい!? 私何かしたっけ!?」


「うるさいよマーリンさん。フォウを顔に押し付けようか?」


「引っ掻かれるからやめてほしいな」


「なんで使い魔に嫌われてるの?」


「なんでだろうね。反抗期なのかな? それとも思春期?」


「そういうところなんじゃない? 話を戻すけど、じゃあ最初に何食べたい?」


「これと言って知っている品数は少ないんだよね。マイ・ロードは何か美食を知っているかい?」


「美食ではないけど、エミヤさんの作るご飯は格別美味しいよ。個人的にスイーツはおすすめだね、あれがないと生きていけないさ」


「それほど美味とはますます味を知りたくなったな」


「いつか叶うといいねその願望」


「そうだね」