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マスターの決意



ひとつ、彼が来てくれたこと。
ふたつ、彼に褒められたこと。
みっつ、彼が頼ってくれたこと。
よっつ、彼が最高のマスターだと認めてくれたこと。

カランコエの花びらを千切りながら呟いてみる。脳裏に浮かぶのはサーヴァント達。私をマスターと呼び、私は相手の真名で応える。期間限定の仲だけど、それでも人から褒められたり認められたりするのは酷く嬉しいもので、たとえ些細なことだとしても、飛び跳ねてしまうくらいには嬉しく感じてしまう。人理を修復する闘いなんてしてるんだもの、私も含めみんな命懸けだ。一般人だった私は彼らの命まで背負っている。人理も、彼らの命も私の手中に定められている。だから時々その重圧に臆してしまうこともあった。目の前で仲間が傷付けばその度自責したし、逆に自分の策略が功を奏した時は胸いっぱいが安堵に包まれ、そして喜んだ。

どんな戦であっても無傷で帰ってこられたら、良かったって痛感した。みんなは「もっと肩の力を抜け」と言うけど、私はただの一般人だからそんなのできるわけが無い。だってもしそれで誰かが目の前で死んだら、私は喉を潰すほど泣いて恐怖に負けてしまうかもしれないから。だけどそれは許されないって解ってる。だから肩が痛くなっても力は抜けられない。私は人理を救うマスターと同時に一般人だ。死人なんて出したくない。だから今日も頑張らないと。頑張ってみんなと一緒に帰ってこないと。


「だからここに置いていくことにしよう」


楽しい思い出は保管庫の中へ。持って行って失くしてしまったら取り返しはつかない、どれも無二の大切なもの。だから厳重に保管しなければ。そしてたまにここに立ち寄って開けてみる。あんなことがあった、こんなことがあった、あれが嬉しかった、これが辛かったと一人で振り返ってみたい。再び来るまでは宝物達は大切にしまっておこう。


「また来るよ」


新しい掛け替えの無いものを連れてね。私は微睡む波から身を起こした。