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この時間が愛おしい



粉のような雪が絶え間なく降り続ける雪の日。窓辺はひんやりと冷たく、框は水滴で濡れているし窓ガラスは温度差のせいで白く曇っている。私は冬は嫌いだが、雪は好きだ。住んでる地域は毎年足首まで雪が積もる。車も出せないし電車も動かない。必然的に社会人や学生は徒歩しか移動手段はない。例に漏れず私もそうだったのだが、就職先が「積雪量が酷い場合、そして出社人数が極端に少ない場合はその日を休みとする」という思わず平伏したくなるような素晴らしい指針を持っているため、今日私は休みである。


「マスタ〜、邪魔だから退いてくんね?」


暖かい炬燵の中に足を突っ込んで横になっていたら、掃除機を掛けている燕青に背中を攻撃された。基本家事全般は自称有能な従者こと、燕青に一任している。彼が来る前までは自炊していたのである程度の家事スキルはあるのだが、いかんせん彼の作る料理は美味しいしその上他の家事も手早いときた。自分がやるまでもなく完璧にこなしてしまうので、次第にそれに甘えつつあるのが現状となってしまっている。自称もあながち間違いではないな、うむ。


「聞いてるか? おーい」


「出たくないなぁ」


「甘えたこと言ってねぇでさっさと移動してくれや。すぐ済ませるからよ」


「んーはぁい」

一応してもらっている身だし、大人しく炬燵から出ることにした。いくらもこもこの靴下を履いているとはいえ、それでも炬燵の中と室内の温度には差があるもので、出た瞬間に再び入りたくなった。ふわもこのパジャマでも靴下でも炬燵には適わない。ああ寒い寒い。早く戻りたい。暖を取るように両手を擦ると、燕青は「ありがとなぁ。ちぃとばかし待ってくれぇ」とにこにこしつつテキパキと掃除機を掛けてくれた。こうしてみるとやっぱり燕青って有能だな。家事できるわ、料理できるわ、甘やかしてくれるわ、美丈夫だわ。あれ? このままだと私、廃人になりかねないんじゃあ。だが幸いにも私は働いている。そうだった、忘れてはいけない。働いているし、今日はたまたま休みなんだ、だから私はまだ廃人じゃない。うん。


「終わったぜ」


「ありがと。掃除で終わり?」


「おう。洗濯機は一時間前に回したから、あとはそれだけだ」


いつの間に回したんだ。全く気づかなかった。契約した居候とはいえ、あくまでも他人である彼に家事全般を任せたことに少し罪悪感を隠せないが、けれどもそれ以上に素直に助かったという感謝の気持ちがある。「やらせてごめん」なんて言葉よりも彼は「やってくれてありがとう」を好む人間だ。だから謝るのはもう辞めた。


「ありがとね。あっ、燕青も炬燵に入りなよ、蜜柑剥いてあげる」


「おっ、いいのかい? んじゃあ、遠慮なく頼むぜマスター」


「いいよぉ!」


「呵々、俺の真似か?」


カラカラと笑う燕青にまるまる一個の蜜柑を剥いて差し出す。私の拳ひとつくらい丸呑みできるんじゃないかっていうくらいに、口をかぱっと開けて瞬く間に平らげてしまう。私の隣に座った彼に苦笑しながらももう一個あげた。テレビを付けようかとも思ったけど、なんだか今は彼と話す方が楽しく思えるのでやめた。私は雪の日が好きだ。綺麗な雪の日は、こうして彼と一緒に過ごせるから。