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泣くなら死ね



マイルームでくらい何者にも邪魔されず悠々自適に過ごしたいものだ。少なくとも属性が善であるような奴とは一緒に居たくない。宝具を展開しかねないからだ。だというのに隣のこいつは一向に離れようとしない。


「邪魔だ、立香」


レイシフト先から帰還した時からずっとへばりついている立香。離れろと言っても聞かず、失せろとあしらったら令呪を行使して私の安息を邪魔してくる。なんだこいつは、私に切り殺されたいのか? アスクレピオスにも「愚患者以外はさっさと出て行け」と言われただろうに。というか愚患者とはなんだ、あいつもいつか殴ってやろうか。ベッドの隣に腰掛けている立香は、呟いた。


「自分のせいで怪我をさせちゃった。ごめん」


何を言い出すかと思えばほとほとくだらないことだった。私の安息を邪魔した理由は哀れみか、ふざけるな。仮にもこいつはこの私のマスターだ。付き従っているのはあくまで自分の退屈しのぎではあるが、それでも腑抜けた奴には従わない。マスターであるならもっと毅然としていろ、でないと私がその首を掻くことになるぞ。私をなんだと思っている。


「くだらないことをぼやきに来たなら早く失せろ。戯言に付き合う義理はねえ」


「あの時どうして守ってくれたの? 自分を重んじる貴女が腕を切り落とされるのを見越して、何故助けた?」


白い包帯が何重にも巻かれた己の手首を見て立香は眉を顰めた。雑兵ひとつに手首を持っていかれるなぞ、随分焼きが回ったものだな自分も。生前はこんなミスはしなかっただろうに。だが罷り間違えても私が人助けなど有り得ない。それこそ愚患者だ。だのに立香は私が「助けた」などという誤解をしている。こいつは阿呆なんだろうか。


「助けたつもりも守ったつもりのねぇよ。自分の獲物が横取りされるのが気に食わねぇってだけだ」


「しばらく貴女は編成から外させてもらう。片腕じゃ戦地に行っても戦えない」


「私をなんだと思っている、立香。ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ」


我が獲物と言えど舐められるのは我慢ならない。片腕では戦えない? っは! 笑止千万。片腕だろうが片脚だろうが、私は戦える。確かに今回は後れを取ってしまったが次はない。悪逆の権化とも謳われた私がおずおずと身を引くとでも? 抜かせ。それこそ脳に焼きが回ったというものだ。この私を従わせているのだ、生半な同情など見せようもんなら私はお前を殺す。腑抜けた面を見せる立香の顎をむずんと掴んでぐいっと引き寄せた。


「泣くなら死ね。憐れむなら殺す。私を一介のゴミ如きが扱えると思うなよ。契約を結んだ以上お前の剣でもある。その剣を易々と隠すな」


立香は目に見えて息を呑んだ。我がマスターもまだまだ未達者と言える。この私に憐れむなんてな。だがこいつの美点はおそらくそこなのだろう。善だろうが悪だろうが偏見を持たずにひとりの人間として接する。善は嫌いだが中庸は割かし好むところではある私は、例に漏れず立香も好いている。剣に同情をするのなら話は別だが。


「次の戦ぶりでは期待しているぞ、マスター」


せいぜい私に牙を向かせるなよ、立香。