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ないしょのはなし



貴方が今の私を見たらなんと言うだろうか。にこやかに談笑する友人を前に、そんなことをふと思った。


「これ可愛くない?」


鈴を転がしたような声で携帯の画面を見せてくる。そこには彼女が好きというメイクブランドのリップの新色が発売の広告が出ていた。淡いピンクと、情熱的なレッドと、朗らかなオレンジの三色のリップ。それらは可愛らしく装飾された容器に入っていた。私は格段メイクに関心があるわけでも、可愛い物に関心があるわけでもないので真意はどうでもいいに尽きるが、それを言えば少なからず彼女を落胆させかねないので、別の気持ちを口にする。


「そうだね。このピンクが似合いそうだね」


「ほんと!? 私もそう思ってたの、でもレッドも捨て難いんだよねぇ」


万華鏡のようにころころと表情を変える彼女はほんとうに明朗快活といえよう。先程入店したカフェでテイクアウトしたドリンクに目を落とすと、上に乗せられている白いホイップに強く惹かれた。甘い香りを放つからではなく、そのホイップがひとりの男性を連想させるからだ。とかく平凡なこれといって特色のない街の一角にある花屋で、彼は働いている。白い髪と白い肌、透き通った泉を思い起こす淡い水色の瞳。外国人という割にはそつなく日本語を話す彼はカルナと言う。接客業であるにもかかわらず寡黙である彼を、今連想した。


「次どこに行く? 行きたいところとかある?」


彼女が出し抜けに顔を覗き込んできたので反射的に足を止めてしまった。


「行きたいところか」


そうだな、行きたいところならある。あの花屋に行きたい。彼と話したい。強い気持ちがふつふつと込み上げてくる。


「ううん、ないよ」


「私はあるんだけど一緒に来てくれる?」


「もちろん」


だけどやめておいた。だって余人が居たら意味がない。私が彼と話したいと思うのは、唯一彼と居る時間だけが呼吸しやすいからだ。だのにそこに余人が居れば気道が狭まってしまう。愛想が良いといえば聞こえはいいけどその実他人にはほとほと興味がない。興味が無いからこそ愛想を良くする。本性はそうでないというのに。カップを握る手に力が篭った。こんな私を見たら彼はなんて言うんだろう。呆れるかもしれない、嫌われるかもしれない。それでも、この息苦しい世界で貴方の隣だけは呼吸がしやすい。