私の恋人ははっきり言って宇宙一可愛い人だと言える。三十路おっさんとかほざいていた割に何かしら抜けているし、考えていることがまんま顔に出てしまうくらい愚直。びっくりするほど可愛いし、びっくりするほど阿呆だ。
「最後のは絶対褒めてないよね!」
「褒めてるよぉ、私の恋人は可愛い! ってね」
「もういいよそこは!」
オレンジのアホ毛をぴょこぴょこと揺らしながら彼は恥ずかしそうに笑った。それに釣られて私も哄笑する。それでも部屋に響くのは私の笑い声だけだった。なにせ元来声の大きい体質なので、呵呵大笑する時も普通の時も人一倍大きい。そのせいでよくうるさいと窘めなれた記憶がある。今日は、一晩中飲み続けるつもりで大量の酒瓶を買ってきた。机には開けた酒瓶と開けていない酒瓶があって、床には空になった酒瓶があっちこっちに転がっている。明日って何ゴミの日だっけ。床に寝転がりながらうつらうつらとなっていく視界で、天井の一点をぼうっと見つめていると、眉間に皺を寄せた我が恋人のロマニの顔が映り込んできた。
「飲み過ぎだよ、明日仕事じゃないか」
「そうだねぇ。仕事だ」
「もうやめなさい」
「やぁ〜だね、まだ飲み足りないや」
「言いながら酒瓶に抱き着かないで! ああもう、なんで君ってば酔うといつも絡み上戸になるのかなぁ」
お母さんのように困った顔をして散らばったゴミを片付けるロマニ。起きれば私がするのに放っておかないのは彼の性格が理由なのか違うのか。甲斐甲斐しさも度を越すとただのオカンだ。とは言っても今は酒盛り気分なので片付ける気は毛頭ない。どうせ言っても聞かない質なのだから放っておこう。彼を飲みに誘ってもいつもどおり断られるのが落ちなのでいっそ掃除させておこう。面白いし。ぐいっと一杯の酒を呷る。
「んまー」
小さく鋭い辛味が喉の奥を突き刺して徐々に消えていく。辛口で買ってくる理由はこの感覚が堪らなく好きだからだ。甘口だと飲んでるという感覚がないから好きではない。やっぱし酒は辛口に限る。ロマニもこの素晴らしさを体験すればいいのに、勿体無い。
「酒を飲まないなんて人生損してるよ」
「僕は酒より甘い物が好きなんだ。スイーツなら一緒に食べてあげるよ」
「なら今度饅頭でも買ってくるよ。こし餡でしょ?」
「いいのかい!? 勿論こし餡だとも!」
一転して双眸を欣然に輝かせるものだから面白くてつい声を上げて笑ってしまった。なんていうかほんと私の恋人は単純で可愛いらしい。
「豆大福と苺大福も買ってくるね」
「それは楽しみだなぁ」
すると突然室内に携帯の着信音が鳴り響いた。それは私のではなく彼の物から発せられていることに気付く。
「ちょっと出てくる」
「はあーい」
携帯を取るや否やそそくさと部屋を出て行った。廊下から「もしもし」というロマニの声が聞こえてくる。一人分の温度が消えた室内に静けさが漂う。さっきまでいた彼が扉の向こうに出たというだけでこの差というのは感慨深いものだ。コップに注いだ酒に口を付ける。
「ぬっる!」
炭酸の抜かれたコーラみたいな味だ。全く美味しくない。べえと舌を出しながら手に持つコップをテーブルに置く。すると同時にがちゃりと扉が開けられた。
「休みの時まで仕事の説教は勘弁して欲しいよ」
「お疲れ様」
とほほと肩を竦めるロマニが携帯を片手に戻ってきたのだ。それだけで静かだった部屋に活気が戻ってきたように感じたから、私は思わずふふと笑みを零してしまった。
