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産声をあげる



※ほぼ藤丸(男)とキャストリアとの掛け合い。
※Lostbelt.No.6ネタバレ有。





カルデアでは数は少ないもの、代わりにこの施設を運営できるほどの能力を持ったスタッフたちが駐在している。個人個人違う能力を持っていて、料理が上手い人や会話が弾む人や、特殊な仕事柄募る不安もあるだろうということで心理面のケアを主とする人も居る。汎人類史を任された俺とてそういう人たちが居なければ頓挫してたかもしれないと思うほど、ここは温かい。


「てことで、諦めて付き合ってあげてね。アルトリア」


「最後の最後で見捨てるなんて酷い! それでも人類最後のマスターですか!」


「うーん、そう言われてもねえ。こればっかりは俺じゃどうにもできないよ」


駄々っ子のように食い下がってくるアルトリア・キャスターに、諦めることを諭しながら首を横に振る。でも嫌がる素振りは無くなるどころか反骨精神を呼び覚ましているようだ。ケルヌンノスを倒し、ヴォーティガーンも倒し、崩壊する妖精國から抜け出して肩を休めたところ、そろそろ新しいサーヴァントを召喚しようということでしたら、来たのがまさかのアルトリア・キャスターだった。一緒に旅した本人ではないことは解っていても、やはり彼女と会えるのは嬉しいわけで。再会を喜んでいた矢先、スタッフに呼び止められたのだ。しかも「カルデアのオカン」という別称を持つスタッフに。


「全く。せっかく女の子が来たって言うのに、すーぐ作戦やらステータスやらと、少しは気を回しなさいっての。ねえ? アルちゃん」


「ええぇ……、そうは思いませんけど、って、初対面でいきなりあだ名呼びされてるぅ……。マスター、なんですこの我の強い方は」


「いやぁ、俺も散々な目に遭ってきてるからなんとも……。断らない方が賢明なんじゃないかなぁ」


「ま、マスターの目が遠い……」


「藤丸くん、アルちゃんちょっと借りてくから一時間後に帰すね」


「私の意志は!?」


「了解です!」


「マスターの裏切り者!」


そもそも彼女を押し切れる相手なんて居ないからしょうがない。英雄王に躊躇いなく話しかけに行ける度胸を持ってるし。それに彼女はここのスタッフ。それはつまり異聞世界で何が起こったのかを解っているということ。彼女は多分、幼くしてその道しか生きられなかったアルトリアに思うところがあるんだと思う。同情とかそんなんじゃなくて、いろんなことを知って欲しいんだと思う。それを耳打ちすれば、頬を膨らませていたアルトリアが萎れていく。理解してくれたんだろうか。


「それは解ってる、んですけど……」


ぼそっと呟き、そんなアルトリアを俺はまじまじと見入ってしまった。彼女の言葉も心も、他意がないのはアルトリアに視えてるはずだ。だとすればおそらく、迷ってるのかな。異聞世界のあの子とは似て非なる存在と解ってるけど、あの子とこういうところは同じなんだなぁと、失笑してしまった。キッと凄まれてしまって謝りながら、彼女の手を取ることを勧めてみた。


「ここにはそういう人たちが居るんだ。見てきなよ、君の目で」


アルトリアは恐る恐るではあるものの、スタッフが差し伸べた手に自身の手を重ねた。去り際に「マスター」と呼び止められる。「なに?」と振り返ると、彼女はにこやかに笑んで言った。


「ありがとうございます」


少女と呼ぶんだろう、この笑顔は。何かを隠すためでも、相手を慮るためでもない、内側に沸いた感情を表すための笑顔だった。うん、と返すとスタッフに連れられてアルトリアは廊下を駆けていく。この関係は永遠に続くものじゃない。けれど、それを悲観することはないと思う。僅かな間としても、彼女が彼女らしく生きて、見たかったもの、見れなかったものに触れてくれれば、それは「アルトリア」にとって良かったと思えるんじゃなかろうか。そんなことを、ちっぽけな俺は考えてみたりする。