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授業



※百合注意。








「それじゃあ私、行ってくるわね」


「うん。気を付けてね」


手を振る彼女は、少し不安そうで、顔こそは笑っていたものの、どこが浮かばない表情だった。


「どうしたの?」


「リリー」


ちょんと引かれた裾は、目の前に立つ私より少し低い彼女が間違いなく引いていた。


「彼なんか、眼中に入れないでね」


彼女の言う「彼」とは容易に想像できた。事がなくても私に付き纏ってくるくしゃくしゃの髪と丸い眼鏡が印象的な男、ジェームズ・ポッターである。顔を思い出しただけで眉間に皺が寄る。


「大丈夫よ。私はあんな奴、嫌いなんだから。それに、私には貴女という可愛い恋人が居るのよ? 浮気なんてしないわ」


諭すように頭を撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細め、擦り寄る。胸に預けられた彼女の髪からは、花の控えめな香りが漂って、いっそうこの子と離れるのが嫌と感じさせた。マクゴナル先生の授業ではなく、彼女と一緒の魔法史であれば、迷い無くここで抱き締め返し、授業に遅れても良いからと、彼女と少しでも長く居るだろう。だが、今彼女を抱き締めれば間違いなく授業をサボってしまう。それに、私の印象、成績共に下がってしまうからと彼女が嫌がる事でもある。私としては、一回の授業くらい良いのだが、愛しい彼女が気に病んでしまうのなら、仕方無い。守る他ないのだ。故に、ここは頭を撫でるに抑えた。


「私、もう行かないと」


言いたくない言葉を遠慮気味に言うと、ばっと彼女が離れてしまった。


「ごめん! ありがとう、リリー。またね」


彼女の花の香りと体温が、一気に離れてしまって惜しく感じてしまったが、予鈴が鳴ったので、私はぐっと堪えて「じゃあね」と手を振って踵を翻した。