※百合注意。
「ねえ、リリー」
沈黙を破った彼女の声は、不安を孕んでいた。動かしていた手を止め、彼女に目を向ける。応じるように瞳が私に向けられた。その顔に、良いとは言えない感情が浮き出ていた。
「どうしたの?」
図書室に居るため、顔を近付け、声を落とした。幸い、ここは二人だけの席で、他の生徒からはだいぶ距離が空いている。遠慮なく話が出来るというものだ。
「え、えっと、リリーって魔法薬学得意でしょ? ここ教えて欲しいなって」
指さした箇所は、スラグホーン先生に宿題として出されたものだった。だが、こんな問題も解けない程彼女は無知ではないし、何よりあからさまである。
「そんな事が聞きたいんじゃないんでしょ?」
図星のようで言葉に詰まる彼女。ややあってから言葉を絞り出した。
「……私で、いいのかなって」
「どういうこと?」
彼女が本に目を落とす。
「私、リリーみたいに美人でもないし、頭が良いわけでもないし、勇気があるわけでもない。そんな私が、リリーと付き合ってて良いのかな……」
彼女の云うとおり、私と彼女は交際の中だ。
「何でそんな事思うの?」
「ジェームズとのやり取りをみてて、そう思ったの。それに、リリーは彼以外からも人気なのを知ってるから、尚更自信がなくて」
「じゃあ、私が他の男子と付き合っても良いって事?」
「嫌だよ……!」
ガタっと音を立てて椅子から飛び立った彼女は、遠方で睨みを送るピンス先生に気付き、慌てて椅子に腰掛けた。恥ずかしさからか、しょんぼりしている。
「嫌だよ、そりゃあ。私だってリリーの事、す、好きだし……」
肩に力を入れ、膝の上で拳を作る彼女に、そっと手を重ねた。
「なら良いじゃない。私は貴女が好きで、貴女も私が好き。それで良いのよ。好きで居て欲しい相手以外からの好意には、興味無いわ」
やんわり微笑むと、不安が霧散したようで、彼女の大きくぱちりとした瞳が嬉しさに潤んだ。
「うんっ、ありがとう、リリー」
目尻に涙を浮かばせ、にっこり微笑む彼女は、私の可愛い可愛い恋人。愛でるようにぎゅうと抱き締めれば、「リリー?!」と驚く声が肩越しに返ってきた。
「好きよ」
「私もだよ、リリー」