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タピオカジュース始めました



私の調べによるとどうやら巷で今「タピオカ」なるものが流行っているらしい。原産が何かは知らないが、どうやら安価のようらしく飛ぶように売れているとのこと。色んなジュースに入れて、若者は飛び付くようにそれを買う。もはや一種の宗教だ。あな恐ろしや。


「てなわけで、暁がタピオカジュースを販売するのはどう?」


「どうやったら発想の着地がそうなるんだよ、馬鹿か? うん」


資料という名の写生をメンバー全員に配って新しい活動の一案を力説した。鼻で嗤笑する者やどうなんだと唸る者、金になるならと関心を抱く者、反応はそれぞれ三者三様である。私を馬鹿と肩を竦めたのは爆発馬鹿のデイダラだ。


「角都がちまちま賞金首集めしなくても、そこにタピオカジュース置いただけで両が湯水のように入ってくるよ?」


「味はどうするんだ」


「最初は無難に苺、葡萄、チョコ、メロンってのはどう? 具材や容器の調達は任せて」


「にしてもこれ、ただの兵糧丸にしか見えねぇんだけど。こんなもんが流行りとか、全員とち狂ったのか?」


紙をぺらぺらと仰ぎながらつまらなそうに口を窄めた飛段。言いたいことは痛いほど解るよ、私だって最初知った時「まじか」って声に出しちゃったもの。ただの蛙の卵だよねこんなの。でもね、これが現実なんだよ飛段。それまで聞く側に徹していたイタチがおもむろに発言した。


「この『たぴおか』に味はするのか?」


「飲んでみたけど味はしない、無味だね」


「はあ? それじゃなんで入ってんだよこの黒丸」


「さあね。創作者に聞きなよそんなの。私だって金になるってことが解らなきゃ、こんなのに着目してないから」


「これ自体は無味ということは、ただのジュースになるんじゃないのか?」


そう言ったのは暁のリーダーことペイン。オレンジの髪は薄暗くてじめじめした拠点の中でも一際目立つな。言われたことに私はこくりと頷く。なるほど、と顎に手を宛てがい神妙な面持ちで頷いたのはヒルコに入ったサソリである。その厳つい顔でタピオカとか喋られたら私、平静を保てる自信ないんだけど。でも笑ったら即首が飛びかねないので我慢しないと。


「そう、メインは飲み物。だから飲み物の種類が豊富な分それだけ購入者も増えるってこと」


「ひとついくらにする気だ?」


「相場は六百くらいだから、敢えて少し安くして五百はどう?」


「飲み物の豊富さと安さで差をつけるのか。なるほど」


「皆さんほんとうに実行するおつもりですか」


それはイタチとペアを組んでいる鬼鮫だった。鮫顔には冷や汗が浮かんでいる。隣に立つイタチは逆に「いい発想だと思うが」ときょとんとしているので、彼の戸惑いは深みを増した。


「仮にも戦争を請け負う組織がタピオカジュースなんてよく解らないものを売るんですか?」


「そうだぜ、うん。オイラは鬼鮫の旦那と同じく反対だ。俺の芸術が活かせねえことはしたくない。うん」


「俺は単純につまんねえからパスするぜ、パス。やるなら他の奴でやってくれや」


異議を唱えるのは鬼鮫、デイダラ、飛段の三人だけだった。これには私も面を食らった。角都はともかく、サソリやリーダーは反対するだろうと読んでいたから。小南はどうなんだろうと視線で見てみたけど、彼女は「ペインに合わせるわ」と言うので、賛成派なんだろう。意外と集まったもんだと改めて感心する。


「だが考えてみろ、現在資金集めで役に立っているのはほぼほぼ角都だけだ。活動には資金が居る。こちらは少なく、入ってくるのは多いのならそれをやる価値はあると思うが」


さすがリーダー。ゴロツキ集団を納得させるのが相変わらず上手い。鬼鮫は変わらず不満そうだが、デイダラや飛段は少しだが賛成派に傾き始めている。私はここぞとばかりに畳み掛けた。


「店番するのは何もひとりがずっとってわけじゃないんだし、交代制でやればいいんじゃない? 開店してからしばらくは私が切り盛りするよ。交代のタイミングはメンバーの任務帰りってことで」


「そもそも店はあるんですか?」


「そこは大丈夫。安く貸してくれる所見つけたから」


安心してと胸を張れば、デイダラに「うわぁ」と何故かドン引きされた。解せぬ。しかもそれは飛段も同じリアクションで。


「なんか文句でもあるってわけ」


「お前、今度はどんな脅し方したんだよ。うん」


「失礼な奴ね。ちゃんと寝込みの時に邪魔して快諾してもらったよ」


「寝首を取りに来たと思われたらそりゃ快諾するだろうな」


細かいことはこの際どうでもいいでしょ。貸してくれる店舗、商品に使える具材と容器、最低でも必要な物はきちんと揃っているわけだし賛成してくれてもいいのではと思う。ほら見てよ、角都なんか入ってくる金を想像して花を散らしてるよ。相方のあんな顔を見て尚も反対できるの? 飛段くん。


「だああもう、解った解った。賛成してやるよ」


「わあい、ありがとう飛段くん」


「てめえ後で覚えてろよ」


さて、残すはデイダラと鬼鮫のふたりだ。考え直してみてくれる? と口にする前にデイダラが手を挙げた。御手洗かな? デイダラくん。


「賛成するぜ、うん」


「なんの心変わりか解らないけど、とりあえずありがとう」


それよりもデイダラ、あんたなんでそんな顔を青くしてるの? 心無しか挙げた手も震えているような。隣で我知れずの顔をしているヒルコから微かだが「よく言った」と言わんばかりの自信が漂うのは何故。まあいいか。何はともあれ残すは鬼鮫のみとなった。


「何も難しいこと言ってるんじゃないんだし、賛同してくれてもいいじゃない」


「そういうことを言っているのではありません」


「じゃあ顔? 確かに看板娘ならぬ看板鮫はあまり需要ないかもしれないけど、大丈夫自信持って、鬼鮫の頬骨はとっても強そうに見えるから!」


「喧嘩売っているんですか貴女」


「俺は賛成だ」


救い船を出してくれたのはイタチだった。さすがイタチ。やっぱりイタチ。持つべきものはイタチだね、うん。特に鬼鮫を納得させる時なんかは。目論んだとおり彼はイタチの言葉にたじろいだ。


「イタチさんは単にジュースを飲みたいだけでしょう」


「それだけではない。世の流れに身を置いてみるのもひとつ大切なことだと言っているんだ」


ご大層なこと言ってるけどあんた前、私に「最近鬼鮫が甘味処に行かせてくれないせいで、甘い物が食べられない」と相談しに来たよね。漁夫の利担ごうとしてるだけじゃん。ふたりの無言の語らいはしばらく続いたが、鬼鮫の溜息で終止符が打たれた。肩を竦める辺りもしやと希望が灯る。


「解りました、賛同します」


「やったー。これで全員賛成したね」


「ああ。では早速お前は材料集めに向かってくれ。準備するのにどれくらいかかりそうだ?」


「一週間あれば開店できるよ」


「そうか。では頼んだ」


「ほいさー」


リーダーの掛け声を合図に私は拠点を飛び出る。タピオカジュースなるものを我ら暁が販売するとは各里の影達も思うまい。これで一躍有名になれば辺り一帯のタピオカジュースを買収できるねやった。待ってなよ私の具材ちゃん達。