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赤色信号



マダラの奴を見る度苦しく感じるようになった。遠目に見れば馳せたい欲に駆られ、近目に見れば逃げたい欲に苛まれる。姿を視界に入れたり声を聞いたりしただけで腹の奥の虫がざわつくのだ。


「というわけで、金輪際マダラには近付かないことにしたの。協力してね柱間兄さん、扉間兄さん」


「いやそれは」


「口は災いの元と言うぞ兄者」


「と、扉間」


夕餉の後に招集をかけた敬愛してやまないふたりの兄にその旨を伝えれば、扉間兄さんに窘められた柱間兄さんは忻然とした相好を苦い薬を飲んだ表情に崩した。一方扉間兄さんは何やら真剣な面持ちをしている。茶化す柱間兄さんと違って扉間兄さんはいつも真剣に話を聞いてくれるから好きだ。それにその表情を読み取る分に、私の決断は間違いでないと改めて確信する。


「あいつに変な術をかけられたかもしれん。迂闊に遭遇しないようしばらくは家に籠っているといい」


「え、任務は」


「それなら他の者に回す。お前は今己のことのみを考え、行動しろ。いいか、相手はあのうちはマダラだ。ワシの想像を絶する難解な術を行使しても可笑しくない。事態は一刻を争うのだ」


「扉間兄さん」


「物分りがいいお前なら英断してくれると信じているぞ」


「解ったよ扉間兄さん。私しばらくは家に居ることにするね」


「ああ。念の為にワシの飛雷神の印を付けておこう」


さすが扉間兄さんだ。やることなすこと相変わらず冴え渡っている。それにこの症状はマダラを見た時にしか発生しない、つまり彼がかけた術の可能性が高いというわけだ。兄さんの言うとおりこの術がマダラによるものだとしたら会うのは大変危険すぎる。あの息苦しさと暑さは間違いなく命の存亡に関わる大変危険な術。少ない情報でここまで読むとは扉間兄さん万歳に尽きる。


「ううむ、どこで育て方を間違えたかの」


固い結束を結んだ私と扉間兄さんを見つめる柱間兄さんの苦労が絶えんといった溜息は一人静かに溶け消えたのであった。在宅処分を受けた私が「マダラの声を聞かないと泣きたくなる」というこれまた新たな症例を出し、柱間兄さんの「なら存分に聞いてくるが良いぞ!」と何故か意気揚々に言われたことで木の葉にて史上に固い結束は呆気なく崩れ去ったのであった。声を聞いたら聞いたで今度は胸が苦しいのだけど、扉間兄さんなんか知らない? ところでなんで柱間兄さんは口に手拭いなんて縛っているの?