鬼鮫、イタチ、私のスリーマンセルで行動してはや数ヶ月が過ぎた。尾獣を追いかけて数多の強敵と対峙し、ようやっと八尾と九尾以外の全員の尾獣が集まった。そんなこんなで今日も残りの二尾を求めて探索している訳だが、今は小休憩と称して新しく見つけた甘味処に居る。
「イタチってあれだよね、とってもいい声してるよね」
こし餡が乗った白い団子を黙々と食べる彼に、それまでお茶を飲んでいた私がそう言えば、手を止めてこちらを見られた。瞬かせる様子を見るに、思いもよらぬことだったのだろう。
「そうか?」
「うん。なんだろ、聞いてて落ち着くし、もっと聞きたいってなる声」
「自分で意識したことはないが」
「人を寝かしつけるにはもってこいの声してるよ」
謎に熱く語られた彼は、何かを考えるような、それでいてどこか嬉しそうな面持ちで「そうか」と呟いた。前々から思っていたのだ。私は彼とは別の里の出身なので、出会うまでは名前しか知らなかった。生来甲高い声音の人は好きじゃないんだが、イタチの声音だけはいつまでも聞いていられると感じた。感情の起伏が薄いのがそのまま声に乗ったかのように淡白とした調子に、少しの雑多でも掻き消えてしまいそうなほど低い声。初めて挨拶された時の気持ちは未だに鮮明だ。私がここまで心酔した声も初めて。だからか、聞きたいなと思った時は他愛ないくだらない雑談をこちらから振ることもある。
「お前もいい声をしている」
「えっ、私?」
まさか同じように返されるとは思ってもいなくて、自分に指を指して驚いてしまった。新しく運ばれた団子を咀嚼し、嚥下したイタチはこくりと小さく肯定する。
「トビと違ってうるさくない」
「それは声より性格なんじゃ」
トビと比べたらそりゃ静かな方だと自負している。あそこまで舌は回らないし、騒ぐ方でもない。だけどそれは言ったとおり性格がそうなのであって声は関係ないと思う。自分的にはそこらの女の子同様に、声音は高い方と思う。たまに小南の声を羨ましいと思ってしまうほど。知らず知らずのうちに目線はイタチから机へと落とされていた。
「俺は好きだ」
顎を引かれたように私の目線は上がっていく。やがて交わったイタチとの視線に、心が嬉しさに跳ねた。黒い瞳はいつもより優しく綻んでいて、口角はやや上がっていた。穏やかに微笑むその様は初めて見た。知らない感情が水を得た植物のように少しづつ、少しづつ心の片隅で芽吹いていく。私も笑って「ありがとう」と返した。彼の声が今以上に好きになりそうだ。そう感じながら。
「私も一応居るんですがねぇ。聞こえてませんか」