木ノ葉隠れの里を一刻にして更地とした強敵ペインを倒したナルトは、たちまち里の英雄として讃えられることとなった。
「ナルトは凄い」「さすがナルト」「あのわんぱく坊主がねぇ」と各々口を揃えて彼を賞賛する。自分たちの愛する者を手にかけたペインを倒したナルトは、それだけで手を叩いて嘉称するには十分だ。だが私はこれっぽっちも気分が晴れない。それどころか胸の当たりがムカムカして、吐きそうなほどのどす黒い感情が燃えている。今まで化け物と後ろ指を指してきたのは誰だ。彼を孤独にさせたのは誰だ。彼を見ようともせず、理解しようともしなかったのに、急に手のひらを返したように阿るなんて。
気持ち悪い、とてもとても気持ち悪い。吐きそう。遠くで笑う黄色い君を囲むのは以前君を貶した女の子達。それが今では黄色い歓声を上げて頬を染めているじゃない。なんておぞましく汚らしいんだろう。凹凸の激しい荒野と化した里は復興を急いでいる。活気溢れる里は、ペインの襲撃などなかったかのようだ。笑うみんな、笑う君。その中で私だけは奥歯を噛み締めて彼を睨むように見つめていた。心頭にあるのは里のみんなと一緒の感情ではなく、様々な気持ちが入り交じった殺意にすら似たどす黒い感情だった。
いくらナルトが彼らに笑いかけても、私に同じことはできない。ずっとずっと彼を見てきた。彼と一緒に育った。見てきた中で、ナルトはずっと迫害されてきた。彼が許そうとも私は許さないし忘れない。彼らがナルトにしてきたことを。あまりにも虫が良すぎるじゃない。泣かせて、傷つけて、独りにさせて。私の前でも気張っていた彼が、本当は誰よりも寂しくて傷ついて泣いたことを、私は知っている。だからこそ許せない、そのつもりもない。取り巻きの中に居たひとりの女が、ナルトに手を伸ばした。
「ナルト」
触れるその直前には彼の傍に居た。私の声に、取り巻きもナルトも一斉に視線をこちらに向ける。手を伸ばした女も結局触れることなくそれを引っ込めた。中心で鼻を伸ばしていた彼は、歯を見せるように大きく笑ってそこから抜け出る。彼の黒い額当ての紐が風に揺れた。
「どうしたんだ?」
「もう昼だし一緒に食べに行こ」
「そういやそうだな。一楽行こうぜ、一楽!」
「奢ってあげる」
「まじで!?いいのか!?」
「うん。チャーシュー大盛りでもいいよ」
「よっしゃああ!早く行くってばよ!」
双眸をきらきらと輝かせ無邪気にはしゃぐナルト。私は相変わらずの様子に困ったように、可愛らしいと慈しむようにくすくすと笑みを零した。彼の頭の中は今はラーメンしかない。それでいい。あんな奴らのことなんか考えなくていいの。薄汚い卑しい奴らのことなんか。ずっとずっと傍に居たのは私なんだから、今更入ってこないでくれる?