誰よりも……なあなたの話
◆ 11歳(監禁開始)
ノゼルの決断により、ジゼルは屋敷の奥にある隠し部屋へと閉じ込められた。
最初の数日は扉を叩き続けた。叫び続けた。
「兄様、開けてよ!! 出して!! ねぇ、お願い……っ!」
けれど、扉の向こうから返事はない。
最初は食事を運んできた使用人に懇願した。泣いて頼んだ。けれど、彼らはノゼルの命令に逆らうことはできない。
やがてジゼルは気づいた。ここは檻だ。自分は鳥籠の中の小鳥なのだ。
それでも、最初の数ヶ月は暴れた。食事をひっくり返し、家具を壊し、逃げ出そうと試みた。
だが、ノゼルが施した魔法障壁に阻まれる。部屋には窓すらなく、出口はただ一つ。鍵は常にノゼルが持っていた。
絶望が胸を締め付けた。
(このまま、一生ここに閉じ込められるの……?)
——そんなはずはない。
絶対に出てやる。ノゼルが何と言おうと、必ず。
◆ 12歳(反抗と罰)
この一年で、ジゼルは自分なりに「戦い方」を学んだ。
——暴力ではノゼルに敵わない。
——無茶をしても、使用人たちは彼を助けてはくれない。
——ならば、どうする?
演技をするのだ。
素直なフリをしよう。従順な弟を演じよう。そうすればノゼルは警戒を緩めるかもしれない。
ノゼルは定期的にジゼルの部屋を訪れた。食事を共にし、魔法の指導を行い、まるでこの閉鎖された空間が「普通」であるかのように振る舞う。
(兄様は狂ってる)
(でも、それなら僕は、それを利用する)
「兄様、最近は体の調子がいいよ」
「訓練のおかげかな。ありがとう」
そんなふうに微笑み、ノゼルの警戒を解いていった。
ある日、ついにその時が来た。
ノゼルが部屋の鍵を外し、中へ入ってきた瞬間——
「……っ!」
ジゼルは飛びかかった。
ノゼルの背後を狙い、わずかでも隙を作ろうとした。
だが——
「甘いな」
一瞬で床に叩き伏せられる。
「っぐ……!」
ノゼルの冷たい瞳が見下ろしていた。
「……やはり、まだ反抗するのか」
「当たり前だろ……! 兄様が僕を閉じ込めるから……!」
「……仕方ないな」
ノゼルの声が、どこか落胆していた。
「ならば、もう少し"しつけ"が必要なようだな」
それからしばらく、ジゼルは再びノゼルの手によって「飼いならされる」ことになる。
◆ 13歳(絶望と諦め)
ジゼルはようやく理解した。
この兄は、何があっても僕を手放さない。
「僕を閉じ込めて何が楽しいの?」
ある日、ぽつりと呟いた時、ノゼルは静かに答えた。
「……お前がここにいてくれるだけでいい」
その言葉を聞いた瞬間、ジゼルの心はひどく冷えた。
(ああ……この人、本当に僕を生かすことしか考えてないんだ)
戦う力をつけたくても、戦場に出たくても、そんなことは関係ない。ただ、ここにいることが「正義」なのだとノゼルは信じて疑わない。
「だったら僕を殺せば?」
「ジゼル」
「どうせ外の世界に出られないなら、死んだって同じだろ」
そう言った時、ノゼルの表情がわずかに曇った。
けれど、すぐに目を細めて、彼はジゼルの頬に触れた。
「……そんなことを言うな」
「っ……!」
その手は優しく、けれど冷たかった。
「俺は、お前を死なせたくない」
ノゼルの言葉はいつもそうだった。
まるで母がジゼルを「生んだ」時から、彼は「弟の生存」だけが目的になってしまったかのように。
ジゼルは、それ以上何も言えなかった。
(こいつ……壊れてる……)
何を言っても通じない。
ノゼルはずっと、このままだ。
——なら、もういい。
◆ 14歳(沈黙)
ジゼルは反抗をやめた。
ノゼルに逆らわず、与えられた食事を食べ、訓練に従い、何も言わず時間を過ごすようになった。
(出られないなら、せめて楽に生きるしかない)
しかし、ノゼルはそんな弟を見て、どこか寂しそうだった。
「……最近、お前はあまり話さなくなったな」
「うん」
「なぜだ?」
「別に」
ノゼルは小さくため息をついた。
「……ジゼル、お前は俺のことが嫌いか?」
「うん」
「……そうか」
それ以上、ノゼルは何も言わなかった。