無法者の頭をたたきまくる話


黒の軍の拠点の奥——団長室の扉を乱暴に叩く音が響いた。

「団長、起きろ」

返事はない。

「……おい、ヤミ」

それでも応答がないことを確認すると、ジゼルはため息をつき、勝手に扉を開けた。

部屋の中は酒の匂いが充満している。
床には酒瓶が転がり、机の上には飲みかけのグラス。

そして、ベッドの上では——ヤミ・スケヒロが仰向けになり、熟睡していた。

「……まったく、またかよ」

呆れたジゼルは、容赦なく枕を引っこ抜き、団長の顔に叩きつけた。

「……んだよ、うるせぇな」

目を開けたヤミは、ぼさぼさの髪をかき乱しながら上半身を起こす。

「もう昼過ぎだ。起きろよ」

「まだ寝てぇ……」

「もう寝すぎだ。……まったく、毎晩飲みすぎなんだよ」

「テメェも結構飲んでんじゃねぇか」

「俺は飲んでも朝には起きる。お前みたいに昼過ぎまで寝ることはねぇよ」

ジゼルは腕を組んで、じろりとヤミを睨んだ。

「で? 起こしに来たってことは何か用か?」

「ああ、事件の報告と、午後の訓練の予定の確認だ。お前がいないと、何も決まらねぇ」

「……そりゃ悪ぃな」

ヤミは欠伸を噛み殺しながら、乱れたシャツの襟元を適当に整える。

「ったく、団長がこんなんでいいのかね」

「いいんだよ。オレの部下が優秀だからな」

「へぇ、それって俺も含まれてる?」

ジゼルが皮肉めいた笑みを浮かべると、ヤミは「当たり前だろ」と軽く笑った。

「……お前が黒に来てから、何か変わったよな」

「何が?」

「いや、最初はもっと冷めてたっつーか、捻くれてたっつーか」

「別に、今も捻くれてるさ」

「そうか? ま、少なくとも、オレの部屋まで起こしに来るくらいにはなったんだから、大したもんだ」

「……ただの世話焼きだよ」

「そういうのを仲間って言うんだろ」

ヤミの言葉に、ジゼルは一瞬だけ目を伏せた。

ノゼルのもとにいた頃は、こういう言葉をかけられることはなかった。
守られるばかりで、自分の意志を尊重されることもなかった。

だが、ここでは違う。

誰かに縛られることもなく、ただ「仲間」として存在できる場所がある。

「……ま、起きてくれたならいいさ。じゃあ午後の訓練、頼んだぜ」

ジゼルはひらりと手を振って部屋を出ようとした。

「おい、ジゼル」

「ん?」

「お前、黒に来て後悔してねぇよな?」

不意に投げかけられた言葉に、ジゼルは足を止めた。

「……後悔するわけないだろ」

振り返らずにそう答え、扉を閉める。

廊下を歩きながら、ジゼルはわずかに口元を緩めた。

「……面倒な団長だよ、ほんと」

けれど、その呟きはどこか、楽しげだった。


あさぼらけと一等星