肉体美を追求する話
演習場での訓練を終えた後、団員の一人がジゼルの肩をぽんぽんと叩く。振り向けば、マグナがじいっとジゼルを……正確にはジゼルの筋肉を見つめていた。
「お前、ほんっと細いよな」
「まあ、11歳から21歳までの一番の成長期に部屋に引きこもってたんだから、こうもなるさ」
しみじみと呟かれて、ジゼルも肩をすくめて苦笑する。いくら普段は着やせしているとはいえ、脱いだ今でもジゼルの身体は薄い。ムキムキマッチョの多い黒の暴牛内では殊更目立っていた。
「でも引き締まってはいるよね。ムキムキじゃないけど、余計な脂肪はついてないって感じ?」
マグナの横からラックが口をはさむ。
「そりゃあな。元々食は細いほうだったし、無駄に健康には気を使われてたから」
「それにしても色白すぎねえか? 直射日光NGのアイドル様かよ」
「昔は外にも出たさ。でも十年も陽の光を浴びなきゃ、こうもなる」
「うわぁ、また出たよ監禁エピソ−ド……」
「冗談に聞こえるか? まだまだ在庫はあるぞ?」
ジゼルがにっこりと笑うと、団員たちは「いや、いいかな今は……」と顔を引きつらせる。ちょっとした意趣返しになりジゼルもけらけらと笑う。
「でももう少し鍛えたほうがいいんじゃねえのか?」
「言っとくが、俺、これでも腹筋は割れてるぞ?」
「マジかよ!」
「触ってみるか?」
ジゼルが冗談めかして言うと、団員たちは「やめろやめろ!」と笑いながら逃げる。
「それでももっと筋肉つけてぇとか、ガタイ良くなりてぇとかなかったのか?」
「ん−−、ないな。割と満足してるし」
それを聞いてはーー!?!?と叫ぶ二人。がっしり鍛えているからこそ、この発言が信じられないのだろう。
「この上腕二頭筋を見よっ!」
「俺の胸筋も負けてないよー。ほら、アスタもこっちこっち」
いつの間にか後輩まで巻き込んで始まったのはボディビル大会。思い思いのポーズを決める彼ら。どこか呆れながらジゼルはそれを見つめた。一応自分の身体も確認してみる。白く、細く。ないわけではないがこいつらやヤミ団長みたいなムキムキマッチョたちには到底及ばない。
(まぁそもそも外に出るまで自分の身体を比べたりしなかったし)
しかしこんなに筋肉に差が出るとは。だってジゼルが知っていたからだなんて自分以外には────
(あ、)
汗のにじむ大胸筋。汗は玉になりすーっと腹筋の線を伝っていく。
大きな手は自身の両の手首を捕まえて固定する。
綺麗に引き締まった腕は力強く、どれだけ力を込めても拘束を緩めない。
彼の肌に張り付く白銀の髪。長い三つ編みは己の顔にまで垂れさがる。その奥で煌々と紫紺の瞳が揺らめく。
それはギラギラと、まるで獲物を狙う肉食獣のようで。
────────ジゼル。
(あーーーー、ヤなこと思い出しちまった)
顔が熱い気がする。頭を抱えだしたジゼルに気づかないまま三人はサイドチェストを始めた。バカでよかった。
「ま、何にせよ。細っこいのは損だよなー」
「は?」
どこからそういう話になった??
「やっぱ男ならもうちょいガッチリしてたほうがモテるって話よ」
「確かに女相手にはそうなるか。が、俺は別にモテたいわけじゃないんで」
「……男には?」
「……………」
────兄貴(男)と関係を持ったことがある俺にそれを聞くのか?
ジゼルが何も言わずに目を細めると、団員たちは「おっと深くは聞かねえぜ!」と慌てて話を逸らした。
ジゼルもそのまま聞き流したふりをして、新しい下着を取りだした。