酒飲みにリベンジする話


ある夜のこと。定期的に開催される飲み会でのことである。

「お前、もう結構飲んでんじゃねぇのか?」

ヤミがじっとジゼルを見下ろす。

テーブルの上にはすでにいくつもの空のグラスが転がっていた。

「はぁ? まーだまだ余裕……」

ジゼルはふらりとグラスを持ち上げ、再び喉に流し込む。

勝負の最中だ。再度ジゼルから持ち掛けたリベンジマッチ。勝てばジゼルはこの飲みの席から自由になり、 ヤミが勝てば……きっとジゼルが何かいいことしてくれる。タダ働きとか。あ、部屋の掃除やらせよう。

「へぇ〜、そんなに俺と飲むの嫌かよ」

「……別に。ただいつもより飲みたくって、それなら勝負にしとけばアンタも付き合うし止めないし」

「ほぉ?」

ヤミが面白そうに顎をさする。 こいつ、どうしようもないほど酒はいると自爆してくタイプだ。

「そんじゃま、せっかく飲んでんだ。聞いてやるぜ。お前の『事情』ってのをよ」

「…………」

ジゼルはぼんやりとヤミを見つめた。

普段なら軽い冗談で流してしまう。

けれど、今は酔いが回っていて、口が止まらない。

「……兄貴が、ウゼぇ」

ヤミの眉がわずかに動いた。

「ほぉ、ノゼルのことか」

「そう……あいつ、ホント何なん……」

ジゼルはグラスを握りしめ、トロンとした目で愚痴をこぼし始めた。

「ガキの頃から、何でもかんでも決めつけて……俺のこと、閉じ込めて……」

「……ふん」

「俺だって……俺だって、もっと自由に生きたかったのに……」

「ほう?」

「クソ兄貴のせいで……!」

ジゼルはテーブルに突っ伏しながら、小さく呟く。

「……兄様なんか、兄様なんか……」

静かな声だった。

けれど、普段の皮肉っぽいトーンとは違って、どこか拗ねた子どものようだった。

ヤミは腕を組んで、それを黙って聞いていた。

「……あのなぁ、お前……」

「何すか……」

「本気で嫌いならよ、わざわざこうして飲みながら愚痴るか?」

「……え」

「どうせ、文句言いてぇだけだろ」

「…………」

ジゼルは黙ったまま、頬を膨らませる。

「俺はな、そういうヤツを何人も見てきたんだよ。言葉じゃ嫌いだなんだ言いながら、結局そいつのこと考えちまうヤツをな」

ヤミは苦笑しながら、ジゼルの額を指で弾いた。

「ぐぅ……」

「ま、いいさ。とりあえず今夜はもう飲むな。酔いが回ってんのに、これ以上飲んだら潰れんぞ」

「…………」

ジゼルはむくれながら、目を閉じる。

「……団長、寝る……」

「おう。そこで寝るなよ。後で誰かに運ばせてやる」

「……………」

やがて、ジゼルの呼吸がゆっくりと穏やかになった。

ヤミはそんなジゼルを見下ろしながら、ため息をつく。

「……あーあ、こりゃめんどくせぇことになりそうだな」

彼の言う「めんどくせぇこと」。

それが何を指しているのか──酔ったジゼルには、まだわかっていなかった。


あさぼらけと一等星