星降る夜に見惚れる話
王国に年に一度訪れる、星果祭。
華やかな光の粒が舞い、街には楽しげな笑い声が響く。
ジゼルは人混みを避けるように、祭りの中心から少し離れた場所を歩いていた。箱入り娘からの日陰者人生にはこれほどの喧騒は未だに肌に合わない。
マグナ達と来ればまだマシだったかなと思いつつも、賭け事をする気分でもないしやってもあいつらの負け分を取り返すだけだ。ノエル達は友人と会うらしいし、何より想い人とのデートの邪魔をしてはかわいそうだ。
適当に散策していれば、ふとした瞬間、目に入ったのは貴族の女たちに囲まれ、穏やかに会話を交わすノゼルの姿だった。
「……は?」
思わず声にならない呟きが漏れた。
何を話しているのかまでは聞こえないが、ノゼルはいつも通りの落ち着いた態度で、時折、静かに微笑んでいた。取り囲む女たちは、そんな彼に夢中になっているのが見て取れる。べたべたと腕に触り、時に頬を赤らめる。
「……別に、どうでもいいけど?」
眉間にしわを寄せ、そっぽを向く。だが、なぜか胸の奥がざわつく。こんな感情、今まで抱いたことがない。苛立ちとも、困惑ともつかない感覚に、ジゼルは自分で驚き、すぐにその場を離れた。
———なんなんだ、俺。
自分でも理解できない感情を振り払うように、足早に人混みを抜ける。
(こんな祭り、来るんじゃなかった。)
フィンラルを探そう。そして今日はもう眠ってしまおう。人混みのせいで酔ったんだ、きっと。
しかしフィンラルより先に大負けしているマグナを見つけてしまった。ああもう、またあんな簡単なイカサマにやられやがって!
あまりにも哀れな負けっぷりから参戦してやることにした。「救世主!!」と縋り付いてくるのがうざい。この気持ちも、大勝ちすれば晴れるだろ。(多分マグナの負け分と合わせてプラマイゼロだろうけど!)
そうして結局、俺は祭りの最後まで居座ることになった。
今季の星取得数の発表も終わり(黒の暴牛が二位とは)祭りも収束へと向かっていた。本気を出した爺さんにはてこずったが、まあ俺の敵じゃないわな。
イカサマの内情を教えろと迫られ、商売道具の一つをやすやすと明かすものかとからがら逃げだした。町の喧騒から少し離れた広場でふいに背後から聞き慣れた声がした。
「ジゼル」
———ノゼルだ。
振り返ると、ノゼルが静かにこちらを見つめていた。消したはずのあの不快感が顔を出す。
「どうしてここに?」
「……別に。少し静かな場所で休んでいただけだ」
苛立ちを隠しつつ答える。しかし言葉とは裏腹に、その声には隠しきれない不機嫌さが滲んでいた。ノゼルはそれに気づいているのか、いないのか、どこか楽しげに目を細める。
「祭りは嫌いか?」
「いや、そんなことはない」
適当に返す。祭り自体は嫌いじゃない。ただ、あの光景を見てから、妙な気持ちになっているのが気に食わないだけで。
「お前がこの手の行事に出るのは珍しいな」
「たまたま、だ」
会話を続けるうちに、ジゼルの苛立ちも少しずつ落ち着いてきた。なんだ、こんなものか。
あっさり消えるのならわざわざマグナに加勢しなくてもよかったかもしれない。
「黒の暴牛ではうまくやってるのか?」
「またその話? まあ噂ほど酷くはない。現に星取得数も第二位だろ?」
俺の功績ではないがドヤ顔をしとく。威張れるとこで威張んなきゃソンソンってね。
「そうだな……お前の活躍もきいている」
ノゼルの表情は穏やかで、どこか優しい。
その時だった。
ノゼルがふっと、柔らかく微笑んだ。
それは、先ほど女たちに向けていたものとはまるで違う、ずっと甘やかで、優しくて……
「っ!」
ジゼルは急に胸の奥が熱くなるのを感じた。
「……俺、ちょっと用事思い出した。行くわ」
適当な嘘を口にすると、ノゼルの前から逃げるように歩き出す。
「ジゼル?」
「じゃあな!」
ノゼルが訝しむように呼びかけるが、それに応えず足を速める。
———なんなんだ、さっきの笑顔は。
気づけば耳まで赤く染まっていた。