何も知らなかったソリドの話


「……は?」

最初は何かの聞き間違いかと思った。

ノゼル兄様が、ジゼルのことをずっと監禁していた? 病弱だったのではなく?

そんなの、ありえない。

ずっとそう思っていた。

ノゼル兄様は完璧な人だ。強く、冷静で、王族としての威厳を持ち、俺たちを導く兄。あの人はいつだって正しい。そう信じていた。

それが崩れたのは、兄様があいつに口付けをするのを目撃したから。

ジゼルの存在が理解できなかった。

あいつは俺たちと違って不真面目で、家を出て、裏社会で生きて、平然と俺たちを見下した態度を取る。

俺のことを馬鹿にしている。

ずっとそう思っていた。

けれど、違ったのか? 俺たちが家の中で「当然」と思っていたことが、実は歪められていた?

「……ふざけるなよ」

誰に向けて言ったのか、自分でもわからなかった。

ノゼル兄様にか? ジゼルにか? それとも、何も知らなかった自分にか?

ネブラはジゼルのことをよく知っている。ノエルも、もうあいつと接点を持っている。

俺だけが、何も知らない。

ジゼルがどんな風に笑うのか。
ジゼルが何を思っていたのか。
ジゼルが、家を出るまでどんな気持ちでいたのか。

知ろうとしたこともなかった。

ノゼル兄様が言うことが正しい。だから、ジゼルを必要以上に気にすることもなかった。

でも、もし——もしも。

「兄様が、間違っていたとしたら?」

そんなこと、考えたこともなかった。

でも。

考えないといけないのかもしれない。

俺の家族は、変わってしまったのだから。


あさぼらけと一等星