世界で一番、だいきらいな話
それはこれよりしばし先の話。されど、いつかはたどり着く話
「ジゼル」
呼ばれるたびに、嫌悪感がこみ上げた。
その声が、俺の名を呼ぶたびに、心の奥底に溜まっていた何かが膨れ上がる。
「お前はここにいればいい」
俺のことを、ただの壊れ物みたいに扱うその目が。
まるで俺が何も知らない子供のように扱う、その声が。
「俺は——っ!」
気づけば、叫んでいた。
「俺はアンタなんか、大っっっ嫌いだ!!」
室内に響き渡る怒声。
ノゼルが驚いたように目を見開く。
そんな顔をするな。
今更、傷ついたみたいな顔をするな。
「何が、俺を守るだ! 何が、ここにいればいい、だ!!」
「ジゼル——」
「ふざけるな!!」
言葉が止まらない。
膨れ上がっていたものが、今、音を立てて溢れ出す。
「俺は、アンタみたいになりたかったんだ!」
「母上みたいに、強い魔法騎士になりたかった!」
「それなのに……それなのに、なんで俺の願いを否定する!? なんで俺を信じない!??」
ノゼルが息をのむのがわかった。
けれど、止まれなかった。
止まりたくなかった。
「俺は……!」
叫びながら、喉が震える。
「……俺のことを愛してるって言うなら、どうして俺の意思を聞いてくれなかった!?」
「……」
「俺は、兄上のお人形じゃない!!」
——箱庭の中で、綺麗に飾られて生きるだけの存在じゃない!!
ノゼルは、何も言わなかった。
ただそこに立ち尽くし、沈黙を落としたまま。
それが余計に、腹立たしかった。
俺を、見ろ。
俺の言葉を、聞け。
俺を——俺として認めろ!!
けれど、ノゼルは何も言わなかった。
わかっていた。
この人は、俺を手放すつもりがないのだと。
「……もういい」
俺は背を向けた。
足元がふらつく。
なのに、ノゼルは何もしない。
いつもなら、俺を抱きしめて、縛りつけてくるくせに。
「……あんたなんか……本当に……本当に、大っっっ嫌いだ……」
俺はこの家に閉じ込められるのが嫌だった。
でも、それ以上に。
俺を見ない、この人が、嫌だった。