世界で一番、だいすきな話
ジゼルは、ノゼルの背中が好きだった。
真っ直ぐで、凛としていて、誰よりもかっこいい兄の背中。
どんなときでも堂々としていて、頼もしくて、強くて。
母と同じように、王国最強の魔法騎士になるのだと誓う兄の姿は、幼いジゼルにとって眩しいものだった。
ノゼル兄様みたいになりたい。
ノゼル兄様の隣に立てるくらい、強くなりたい。
いつか、きっと。
「ジゼル」
兄が名前を呼ぶだけで、嬉しかった。
「ふふん、なんですか、兄様!」
ぱっと振り返ると、ノゼルが呆れたようにため息をついていた。
「なんですか、ではない。お前、泥だらけだ」
「訓練してたんです!」
誇らしげに胸を張ると、兄は少しだけ眉をひそめた。
けれど、その目は少しだけ優しい。
「俺みたいになる、なんてまた言っていたのか」
「言ってます!」
「……仕方ないやつだ」
呆れたように言いながらも、ノゼルはジゼルの髪を乱暴にかき回した。
それが、嬉しかった。
兄に撫でてもらうのが好きだった。
兄に褒めてもらうのが好きだった。
兄に「仕方ないやつだ」と言われるのが好きだった。
だって、それは兄様が俺を見てくれている証拠だったから。
——だから、兄様。
俺、がんばるよ。
兄様みたいに、強くなる。
兄様みたいに、立派な魔法騎士になる。
だから、ずっと、俺のことを見ていて。
俺は——ノゼル兄様が、大好きだった。