夢を見ていたわたしの話
兄の姿を見つけると、迷わず駆け出した。ノゼル兄様は軍の演習場の隅で、母様と剣の訓練をしていた。
母様は強い。鋼の刃を操り、鋭く、隙のない動きで兄を翻弄する。けれど兄もすごかった。何度倒されても立ち上がり、歯を食いしばって前へ進む。
「……兄様」
気づけば、地面に膝をついていた。兄の背中に見惚れていたら、足がもつれて転んでしまったのだ。
「ジゼル?」
剣を構えていた兄が、すぐに駆け寄る。
「痛いか?」
「ううん、大丈夫」
少し擦りむいた膝を気にもせず、ジゼルは笑った。こんなことで泣いたりしない。兄様はもっと痛いはずなのに、絶対に泣かないのだから。
「強いな」
兄様がふっと笑った。その言葉が嬉しくて、ジゼルはさらに大きく笑った。
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7歳の頃:二人きりの夜
「兄様、もう寝た?」
夜更け。ジゼルはこっそり兄の部屋に忍び込んで、小さな声で問いかけた。
「……まだだ」
返ってきた声に、布団の端をぎゅっと握る。隣には兄様がいる。暗闇でも、ノゼル兄様の存在が感じられて安心した。
「兄様、今日の訓練、すごかった」
「そうか?」
「うん。やっぱり兄様はすごいなあ」
「ジゼルも、そのうち俺のように強くなれる」
ノゼル兄様の言葉に、ジゼルは少し考えた。そして、もぞもぞと兄の布団に潜り込んだ。
「でも、俺が強くなったら、兄様はもう俺のこと守ってくれなくなる?」
「……そんなことはない」
兄様の手が、そっと髪を撫でる。
「ジゼルがどれだけ強くなっても、俺はお前を守る」
「約束?」
「……ああ、約束だ」
ジゼルは満足して目を閉じた。暖かい兄様の隣で、安心して眠りに落ちていった。