夢から覚めたわたしの話
最近、兄様と過ごす時間が減った。軍の訓練や母様の指導が厳しくなったのだ。
「ジゼル、少しは一人でできるようにならないとな」
兄様は優しくそう言ったけれど、ジゼルは納得できなかった。
「でも……」
「俺は軍に入る。もっと強くならなくてはいけないんだ」
その言葉が、ジゼルの胸を締め付けた。兄様が遠くに行ってしまうような気がして、思わず袖を掴んだ。
「……兄様」
「ん?」
「……何でもない」
言えなかった。兄様を困らせたくなかった。でも、本当は――ずっとそばにいてほしかった。
「ジゼル、お前は母様と俺、どちらが好きだ?」
ノゼルは冗談めかして尋ねたつもりだった。
だが、ジゼルはしばらく考え込んだ後、小さな声で言った。
「……にいさま」
「……」
「いちばんすきなの、にいさま!」
ジゼルは両手を広げて、にこにこと笑った。
「だって、にいさま、ジゼルとたくさんあそんでくれるもん!」
「母様だってお前を大事にしてくださっている」
「でも、いまはあかちゃんのおせわでいそがしいもん……」
言葉が少しずつつっかえながらも、必死に伝えようとする弟の姿がいじらしくて、ノゼルは思わず小さく笑った。
「それなら、俺がお前のことを見ていてやる」
「ほんと!?」
「ああ」
「やったぁ!!」
ジゼルは嬉しそうに兄の腰にしがみついた。
「じゃあ、にいさま!ジゼルのおひめさまやって!」
「……なんだと?」
「だって、にいさまはつよいし、かっこいいから、おうじさま!」
「なるほどな。それで、お前は?」
「おひめさま!!」
ノゼルは「はぁ……」とため息をついたが、すぐにジゼルをひょいっと抱き上げた。
「じゃあ、お前は俺のお姫様だな」
「うん!!!」
満面の笑みを浮かべるジゼルを見て、ノゼルは思った。
――こんなに無邪気で、甘えてくれるのは今だけなのだろうな。
けれど、それでもいい。
ジゼルが今、幸せそうに笑っているのなら、それでいいのだ。
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【8歳のジゼルと12歳のノゼル】
〜「にいさま、すごい!!!」〜
「うわぁ……すごい……!!」
演習場の端で、ジゼルは目を輝かせながらノゼルを見つめていた。
兄が繰り出す水銀魔法は、まるで生き物のようにしなやかに舞い、相手を制圧する。
「にいさま、すごい!!!」
「当たり前だ」
「ジゼルも、にいさまみたいになれる?」
「……お前が努力すればな」
ノゼルはジゼルの頭を優しく撫でた。
「本当!?じゃあ、がんばる!!!」
「その意気だ」
ノゼルは微笑んだ。
ジゼルの魔力量は少ないが、それでも努力すれば強くなれる。
「けど、にいさまが一番つよいよね!!」
「……はは、そうか」
「うん!ジゼルは、にいさまのことがいちばんすき!!!」
ジゼルの純粋な言葉に、ノゼルの胸の奥が温かくなる。
この愛らしい弟を、ずっと守っていきたい。
――ずっと、俺の傍にいてくれ。
ノゼルは言葉にはしなかったが、そっとジゼルの手を握りしめた。
弱いままじゃ、兄様の隣には立てないんだ。
待っててね兄様。すぐに追いつくから