仕方がないと言い聞かせる話


「くそ……寒いな」

冷たい風が洞窟の奥まで吹き込む。湿った空気が肌に張り付くように冷たい。ジゼルは腕を抱え、奥歯を噛み締めた。

「ジゼル」

不意にノゼルの声がしたかと思うと、肩をぐっと掴まれる。

「なんだよ」

「こっちに来い」

ジゼルが反発する間もなく、ノゼルは自らのマントを広げ、その中へとジゼルの身体を引き寄せた。

「……は?」

思わず呆気に取られる。

「寒さで動けなくなったらどうするつもりだ。魔力を使う余裕はない。凍死したいのか?」

「っ……! 冗談じゃねぇ……!」

必死に距離を取ろうとするが、ノゼルの腕は容赦なくジゼルの身体を引き寄せる。

「我慢しろ」

有無を言わさぬ声に、ジゼルは反論できなかった。

ぴたり。

密着する身体。ノゼルの体温がじわじわと伝わってくる。冬の寒気に凍えた身体には、驚くほど心地よく感じられた。

……いや、心地いいとか、そういう問題じゃなくて。

「……チッ」

不満げに舌打ちし、視線を逸らす。だが、その瞬間に気づいてしまった。

耳にかかる吐息。

ノゼルの呼吸が、自分の肌に触れている。

「……っ」

背中に走る奇妙な感覚。胸の奥がざわつく。

(なんで……?)

ただの体温維持。兄弟同士なら珍しくもない、ただの防寒策。

なのに──

心臓の鼓動が、妙に早い。

(なんなんだ、これ……)

自分の鼓動を悟られないよう、ジゼルは必死に息を潜めた。

だけど、隣にいるノゼルは何も気づかず、ただ静かに目を閉じている。

……それが、余計に腹立たしかった。


あさぼらけと一等星