異変に戸惑う俺らの話


「なあ……ジゼル、最近ノゼル団長のこと避けてねぇ?」

広間でのんびりと酒を飲んでいたフィンラルが、何気なくそう言った。

「……今さらじゃねぇの?」マグナが眉をひそめながら返す。「あいつは昔から兄貴のこと嫌ってるし、会えば喧嘩だろ」

「いや、そうなんだけどさ……いつもと違うっつーか、妙にあからさまっていうか」

「んー?」ラックが興味深そうに身を乗り出す。「例えば?」

「この前、銀の団員が報告に来た時のことなんだけど……」

フィンラルは、数日前の光景を思い出した。

──任務から戻ったジゼルの様子が、どうにも変だった。

銀翼の大鷲の団員が何かの連絡を持ってきた際、ジゼルは廊下の曲がり角で偶然ノゼルを見かけた。

その瞬間、まるで見てはいけないものでも見たかのように顔を背け、進行方向を変えたのだ。

(いやいや、いつもは睨みつけて「クソ兄貴が」って悪態つくのに、なんだあの挙動!?)

フィンラルはあまりの不自然さに、思わず二度見した。

そして翌日──

黒の本拠地で何か書類整理をしていたジゼルが、入口に気配を感じて顔を上げた瞬間。

「ジゼル」

扉の前に立っていたのはノゼルだった。

その瞬間、ジゼルは

「わっ!!?」

と、小さく奇声を上げ、紙束をぶちまけた。

「えぇ……」

黒の団員たちも思わずドン引きである。

それだけではない。

いつもならノゼルと視線が合えば不機嫌そうに睨み返すのに、この時は明らかに 目を合わせないようにしていた のだ。

「どういうことだ?」とヤミが横目でジゼルを見たが、当の本人は紙束を拾いながら

「なんでもない!! なんでもないから!!」

と、異様な勢いでごまかしていた。

(……いやいや、めちゃくちゃ動揺してるじゃん!!)

フィンラルは思わずジゼルの額に手を当てたくなった。熱でもあるんじゃねえか?

ノゼルの方はというと、いつも通りの仏頂面で「……何を騒いでいる」と眉をひそめただけだったが、それがまたジゼルの挙動不審を加速させた。

「いや、マジでどうしたんだ? いつもなら『クソ兄貴が!!』って怒鳴ってたじゃん?」

フィンラルの言葉に、マグナも腕を組んで唸る。

「確かに……おかしいな」

「だろ? ノゼル団長が近くにいると、ジゼル、急に落ち着きなくなるんだよ。こう……目をそらして、落ち着きなく手を動かしたり、耳とか首の後ろ触ったり」

「え、それって……」ラックがニヤニヤしながら身を乗り出した。「もしかしてジゼル、照れてるんじゃね?」

「ぶっ!!?」

マグナが盛大に酒を吹き出した。

「は!? 何言ってんだ!? アイツと兄貴は犬猿の仲だぞ!?」

「でも、普段あんなにガン飛ばしてんのに、今は目すら合わせねぇんだぜ? むしろそれって……」

ラックがニヤリと口角を上げる。

「意識しちゃってるってことじゃね?」

「いやいやいや、絶対ねえだろ!!?」マグナが全力で首を振る。「そんな話聞いたら、ジゼルの方が『俺はそんな気色悪いこと考えねえ!!』ってぶち切れるわ!!」

「だよなー……」

「でも、実際に妙な態度とってんだよな……?」

団員たちはしばし黙り込む。

その時。

「何の話してんだ?」

突然、当のジゼルが食堂に入ってきた。

全員の背筋がビクゥッッッ!! と固まる。

「な、なんでもねぇよ!!」

「そ、そうそう! 最近の天気の話とか……」

「……は? 天気?」

ジゼルが胡乱な目で彼らを見回す。

「まあいいけど……なんか変なことしてたら承知しねえからな」

そう言って、ジゼルはビールのジョッキを取り、無造作に椅子へ座る。

(いやいや、お前の方が変だっつーの!!)

と、団員たちは心の中で総ツッコミを入れたのだった。


あさぼらけと一等星