うわさ話が気になる話


黒の拠点の広間。

夜の帳が降りた頃、団員たちは酒を片手にくつろいでいた。

ジゼルもその輪にいたが、妙に黙り込んでいる。

ぼんやりとグラスを回し、視線は虚空を彷徨う。

──たまたま耳にした、ある話が頭から離れなかった。

「おい、聞いたか? ノゼル隊長、お見合いしたらしいぜ」

「へぇ、さすが王族。相手は貴族の令嬢か?」

「らしいぞ。銀髪で美人で、すっごく気品のあるお嬢様だとか」

「ノゼル隊長にぴったりじゃねぇか」

──銀髪で、美人で、気品があって……

ジゼルは無意識に自分の髪を指で弄った。

目に入る銀色の髪。

(……関係ねぇ)

ギリ、と奥歯を噛む。

「ジゼル?」

「……なんだよ」

「さっきから、ずっと黙ってるじゃねぇか」

「別に」

バネッサの問いに、ジゼルはグラスを煽った。

「兄貴のお見合いがどうしたよ。どうせまた、政略結婚かなんかだろ」

「まあ、そうだろうけど……」

「そもそも、俺に関係ねぇ話だろ」

「……ふぅん?」

バネッサが意味深な微笑を浮かべる。

ジゼルは思わず舌打ちしそうになった。

「お見合いしたからって、結婚するとは限らねぇし、兄貴がどんな女と一緒になろうが、俺の知ったこっちゃねぇ」

言いながら、自分でも驚くほど胸の奥がざわつく。

──どうでもいいはずなのに。

──関係ないはずなのに。

(なんで、こんなに……ムカつくんだ)

ノゼルがどんな相手を選ぼうと、ジゼルには関係ない。

むしろ、良いことじゃないか。

「なぁ、ノゼル隊長の好みってどんな女なんだろうな?」

「お見合いの相手、銀髪で大きな瞳らしいし、そういうのが好きなんじゃね?」

「ノゼル隊長に憧れる貴族の娘、たくさんいそうだもんな」

「ノゼル隊長に見初められるなんて、幸運な女だぜ」

「……っ」

ジゼルの眉がピクリと動く。

喉の奥に、妙な引っかかりが生まれる。

酒のせいか? いや、違う。

(……知るかよ、そんなの)

銀髪で、大きな瞳。

そんな女が兄貴の隣に立つのか?

そんな女が、兄貴の「大切な人」になるのか?

ジゼルは乱暴にグラスを置いた。

「……お見合いくらいで騒ぐなよ、くだらねぇ」

そう吐き捨て、席を立つ。

「ちょっと、ジゼル?」

「寝る。勝手に飲んでろ」

そのまま部屋を出る。

背後でバネッサが「やれやれ」と溜息をついたのが聞こえたが、振り返る気になれなかった。

──関係ねぇのに。

──なんで、こんなに気にしてんだ、俺……?


あさぼらけと一等星