末の妹に会う話
軍「黒」拠点・酒場
黒の団員たちが集まる酒場の一角。ジゼルはいつものように酒を片手に、適当に団員たちの話を聞き流していた。
しかし、今日は少しだけ様子が違う。
「——てなわけで、話には聞いてたと思うが……まあ、びっくりしたよな?」
「まさか兄貴が来るとはなぁ」
「てか、ノエル、お前実の妹だよな? どんな気分よ?」
ジゼルはちらりと視線を向けた。
その中心、ノエル・シルヴァはこちらを伺いながらも目を合わせず、居心地悪そうにしていた。
「……確かに任務先で連絡は受け取ってましたがそれでも………」
「はは、まさか兄貴が本当にここにいるとは思わなかったって?」
「当然でしょう! だって……」
ノエルはジゼルを見て、微妙な表情を浮かべた。
「私が知ってる“ジゼル兄様”とはまるで別人です」
「お?」
団員たちが面白がってノエルを見つめる。
「病弱で、屋敷の外には出られないと聞いていたのに……まさかこんな人で、しかも皆さんと一緒に酒場で酒なんて……!」
ノエルの言葉に、団員たちは一斉に吹き出した。
「ぶははっ!いやいやいや、どう見ても健康体だろ!」
「ジゼルが病弱? 冗談もほどほどにしろよ、こんなやつが?」
「いや、まぁ……兄貴がそういうことにしてたんだよ」
ジゼルはため息をつきながら、酒をあおる。
「俺は“表向き”病弱だったんだよ。外に出られない理由を作らなきゃ、周囲も不審に思うだろ。ノエル、いやソリドが物心つく前から俺は籠の鳥だったし」
ジョッキを空にしてなおお代わりを要求するジゼル。その健啖ぶりを見ればいかにノゼルが嘘をついていたのかがわかるというものだ。
「ノエルがこんなに母様に生き写しってのもこの前初めて知ったよ俺は。お前も実は苦労してんじゃない? あの変態クソ野郎もノエルが軍に入るのをたいそう反対して」
「いいえ、それはないです」
不意に声が響いた。
「え?」
ジゼルが眉をひそめると、ノエルが真っ直ぐに見つめ返してきた。
「私たち、兄様から普通に訓練を受けてました。なので実力は知られています。……確かに認められなかったけど、監禁なんてされてません」
「……」
「つまり、兄様がそこまで執着していたのは、ジゼル兄様だけです」
その言葉に、場が一瞬静まり返る。
「……きっしょ」
ジゼルは低く呟いた。
「うわ、めっちゃドン引きしてる」
「いや、そりゃドン引きもするだろ……」
「ジゼルがこんだけ嫌がってんのに、それでも手放さないってのは……うん、兄貴やべぇな」
「だよなぁ……」
「でもまぁ、お前が銀ピカ団長の唯一の執着対象だったってことで、ある意味すげぇよな?」
「どこがすげぇんだよ、クソが」
ジゼルが酒を煽ると、団員たちは笑いながら肩をすくめた。
「ま、これからは俺たちが“お兄様”から守ってやるよ」
「そうそう、団長がいる限り、アイツも迂闊には手を出せねぇだろうしな!」
「……フッ、頼もしいねぇ」
ジゼルは半ば呆れつつも、どこか安心したように笑った。
ノエルはそんな兄の様子を見て、少しだけ考え込む。
(兄様は……こんな顔、あのお屋敷にいた頃には一度も見せなかった)
銀の檻を抜け、黒の獣たちの中で生きる兄。
彼がここでどう過ごしていくのか、ノエルは少しだけ興味を持ち始めていた。