怪我をした話


「ほんとに俺のこと、心配してんだなぁ」
ジゼルはうっすらと目を開けた。

天井が見える。白い天井。

そして、ふっと香る懐かしい匂い——銀の水銀が揺れる音と共に、ベッドの傍らに座る男の姿があった。

「……うわ、マジかよ」

掠れた声で呟くと、その男——ノゼル・シルヴァは眉をひそめた。

「目が覚めたか、ジゼル」

「……はは、悪いな、死んでねぇよ」

「馬鹿を言うな」

ノゼルの声は低かった。

ジゼルはぼんやりとした意識の中で、自分の状況を思い出した。

——敵の拠点を探る任務中、思わぬ奇襲を受け、応戦するも逃げ道を塞がれた。
——不意打ちの一撃を受け、意識を失った。
——……それから、ここに運ばれたのだろう。

(“黒”の仲間が助けてくれたんだな……)

そう思っていたが——

「……なんでお前がここにいる?」

「お前が大怪我をしたと聞いて、来ないわけがないだろう」

「……はぁ?」

ジゼルは呆れたようにため息をつく。

「たかが怪我だぞ。命に別状はねぇ。どうせそのうち治る」

「“たかが”ではない」

ノゼルの声が強くなる。

「お前はこれまで、どれだけ無茶をしてきた? どれだけ死にかけた?」

「……」

「俺がこうして来なければ、お前はまた無理をしていただろう」

「……はぁ」

ジゼルは無気力に天井を仰ぐ。

その横で、ノゼルは険しい顔のまま、静かに椅子に座り直した。

長い沈黙が流れる。

ふと、ジゼルは気づいた。

(……こいつ、めちゃくちゃ疲れてんじゃん)

ノゼルの顔色は悪く、目の下にはうっすらと隈ができていた。

(寝てねぇな……)

「お前、俺のこと本気で心配してんだなぁ」

ぽつりと漏らした言葉に、ノゼルが顔を上げた。

「……当然だ」

「へぇ……」

ジゼルは妙に納得したような気分になった。

ノゼルは本当に自分を心配しているのだ。
それは間違いない。

(……まあ、当たり前か)

執着とか、狂愛とか、監禁とか——色々と問題はあるが、根っこは単純だった。

こいつは俺を大切に思っている。
だからこそ、俺を失うことを恐れ、必死で手元に置こうとしたんだ。

ジゼルは思わずクスリと笑った。

「……きっしょ」

「……何?」

ノゼルが怪訝な顔をする。

ジゼルは薄く笑いながら、首を振った。

「いや……やっぱお前、きっしょいなって思ってさ」

「……そうか」

ノゼルは無表情のままだったが、その手はジゼルの枕元で握られていた。

(まあ、そういうとこも含めて、今さら驚きはしねぇけどな)

ジゼルは再び目を閉じた。

この兄は、きっとこれからもこうして俺を心配し続けるんだろう。

それが鬱陶しくて、でも、ほんの少しだけ——温かかった。







あなた:
訂正。
目を覚ますとノゼルがいてジゼルはもっと驚きます。動いたことでいっつぅ……と声が漏れ、動くな、怪我に障るだろと窘められる。
ノゼルの様子から納得、腑に落ちる流れはよいのですが、どこか温かい気持ちになってから「やはり、家に戻った方がいいのではないか?」とノゼルが言い出して、やっぱこいつ変わんねぇや。と、きっしょと思います。

もしもノゼルが強行手段に出ようとしたら、叫んで黒の団員たちを呼ぶでしょうね笑
ChatGPT:
「やっぱ、こいつ変わんねぇや」
ジゼルが目を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは銀色の髪。

——見慣れた色だった。

「……っ、は?」

混乱の中で上半身を起こそうとすると、鋭い痛みが走った。

「いっつ……」

「動くな、怪我に障る」

低く冷静な声が降ってきた。

ジゼルは驚愕の表情でベッドの横に座る男を見た。

「……いや、ちょ、なんでお前がここにいんの?」

「言ったはずだ。お前が大怪我をしたと聞いて、来ないわけがないと」

さらりと言い放つノゼル。

ジゼルはぽかんと口を開けたまま、しばし呆然とする。

(こ、こいつ……マジで来たのかよ……)

何より驚いたのは、その顔色だった。

目の下には隈ができ、表情には疲労の色が濃い。

(……寝てねぇな)

この数日、まともに休んでいないのが見て取れた。

「……ほんとに俺のこと、心配してんだなぁ」

思わず漏れた言葉に、ノゼルは真剣な顔で「当然だ」と即答した。

(……はぁ、そりゃそうか)

ノゼルが俺を心配するのは、もはや当たり前なんだ。
それこそ狂気じみたレベルで。

(まあ、今さら驚くことでもねぇか)

少し腑に落ちた気分で、ジゼルは苦笑を漏らした。

「……きっしょ」

「何?」

「いや、お前ってやつは……って思っただけ」

「ふん……」

ノゼルは微かに眉をひそめたが、それ以上何も言わなかった。

そんな沈黙の中、不意にノゼルが口を開く。

「やはり、家に戻った方がいいのではないか?」

「…………」

その一言で、ジゼルの脳内に**ガシャン!**と何かが砕け散る音が響いた。

(あーーーーー! やっぱこいつ変わんねぇや!!!)

さっきまでの納得や腑に落ちた気持ちが一瞬で吹き飛んだ。

ジゼルはゆっくりと深呼吸し、努めて冷静に言った。

「いや、戻らねぇけど?」

「ここにいるよりも、シルヴァ家にいた方が安全だ」

「いやいやいや、戻らねぇって」

「ジゼル——」

ノゼルが立ち上がる。

その仕草が微かに危険な空気を孕んでいることを察し、ジゼルの全身に戦慄が走った。

(やべぇ、このままじゃまた連れてかれる……!)

すぐさま、ジゼルは全力で叫んだ。

「おい! 誰か!! 変なやつが俺を攫おうとしてるぞ!!!!」

——ドタドタドタドタ!!!

「ジゼル!! 何があった!?」
「変なやつ!? どこだ!!!」
「てめぇ、何してやがる!!!」

黒の団員たちが一斉になだれ込んでくる。

ノゼルの眉がピクリと動いた。

「……貴様」

「へへっ、悪いな兄貴。“黒”にいる限り、俺を無理やり連れ帰るのは無理ってこった!」

「…………」

ノゼルは無言でジゼルを睨みつけた後、周囲の団員たちを一瞥し、静かに息を吐く。

「……お前がどうしてもそう言うなら、今はこれ以上は言わん」

「へぇ、珍しく引くんだ?」

「無理矢理に連れ帰っても、お前が反発するだけだからな」

そう言ってノゼルは踵を返した。

「……だが、俺は諦めたわけではない」

背を向けたまま、ノゼルは言い残す。

「次に怪我をした時は、俺が容赦なく連れて帰る」

バタン、と扉が閉まる。

ジゼルはふぅ、と安堵の息をついた。

「お前……相変わらず厄介な兄貴を持ったな」

ヤミが呆れ顔で煙草をくゆらせる。

「……ほんっとに、きっしょ」

ジゼルは心底ウンザリしたように吐き捨てた。

ノゼルの執着は、何も変わっていなかった。


あさぼらけと一等星